「冒険小説界の巨匠 A.J.クイネルの傑作をデンゼル・ワシントン&ダコタ・ファニングで映画化!」
冒険小説界の巨匠 A.J.クイネル。「メッカを撃て」、「スナップ・ショット」など数々の傑作を発表している彼のデビュー作であり、傭兵のエキスパートであったクリーシィを主人公とした〈クリーシー・シリーズ〉の1作目にして最高傑作とされる「燃える男」。今回紹介する作品は、この小説「燃える男」を映画化した作品『マイ・ボディガード』である。
実は、このA.J.クイネルによる「燃える男」は過去に1度映画化されている。『レッド・オクトーバーを追え!』、『羊たちの沈黙』、『トレーニッグ・ディ』など多くの作品で印象的な役を演じているスコット・グレン主演での映画化である(残念ながら、日本では未公開に終わっているが、この『マイ・ボディガード』の公開で観られるチャンスが生まれるかも?)。また、これも意外なことなのだが、A.J.クイネル原作の映画化作品は、この「燃える男」しか存在しないのだ。
今回のA.J.クイネル原作「燃える男」の2度目の映画化である『マイ・ボディガード』で主人公のクリーシーを演じるのは、ハリウッドを代表する俳優であるデンゼル・ワシントン、そして彼に保護される少女を演じるのは天才子役
ダコタ・ファニングである。監督は『トップ・ガン』、『トゥルー・ロマンス』、『クリムゾン・タイド』、『スパイ・ゲーム』などヒット作を連発し、アクションには定評のあるトニー・スコット。もちろん、この作品も全米チヤート初登場1位を獲得している。
物語は、誘拐が多発する街で実業家の娘のボディガードとして雇われた軍歴も豊富な男と娘の交流を軸に進んでいく。その交流は心が乾ききった男に新たな潤いを与えるものに変わっていくのだが、男の目の前で少女は誘拐され、男は瀕死の重傷を負ってしまう。そして・・・・というものである。
「燃える男」の映画化権を所有していたインディペンデントの映画プロデューサーとしては最も成功しているひとりであるアーノン・ミルチャン(もちろん、日本未公開の作品にもプロデューサーとして係わっている)がトニー・スコット監督にこの企画を持ちかけたのは、作品の映画化権を買った20年も前にさかのぼる。スコット監督はその時以来、片時もこの企画を忘れていなかったという。そんなスコット監督の熱意により20年というときを経て企画が動き始め、原作の脚色をブライアン・ヘルゲランド(『L.A.コンフィデンシャル』)に依頼。出来上がってきたものは原作に忠実にイタリアを舞台としたものだったが、その設定は使い古され、現実に合わないと感じた監督たちは、舞台をメキシコシティへと変更する。それはメキシコシティでは誘拐が巨大ビジネスとして成り立っていた空だった。現実とのリンクという部分に大きな重みを置いているこの作品は、ロケ地の大部分を舞台となるメキシコシティで行っているとともに、現地の言葉であるスペイン語の多様(デンゼル、ダコタももちろん話す)など様々な部分で物語の背景にリアリティーを持たせる配慮が成されている。また、多重露光、色調の変化など様々なフィルム表現のテクニックを用いた映像とそのテンポに一体化した音楽が物語の緊迫感、スピード感を盛り上げていくなど効果的に使用されている。
出演は、デンゼル・ワシントン、ダコタ・ファニングの他に、クリストファー・ウォーケン、ジャンカルロ・ジャンニーニ、ミッキー・ローク、マーク・アンソニー、ラダ・ミッチェルなど個性溢れる面々。注目を浴びるであろう主役のふたりだけでなく、彼らの役所も見もののひとつである(ちなみに、最初は悪役が予定されていたウォーケンだが、悪役はもううんざりだという抗議で役が変更したという。もちろん、監督も納得の変更だ)。
オープニングのシーンで映し出される「中南米では6時間に1件の割合で誘拐事件が起こり、その被害者の70%は帰ってこない」という言葉を境に物語がスタートする(その前のオープニング・ロールも凝っていて面白い)この作品は、その言葉が示すリアリティーを随所に提示しながら進んでいく。そういった背景の中、作品はハリウッド映画らしいミステリー、愛情、アクションなど様々な要素が楽しめるエンタティンメントとして仕上がっている。当然、原作とのイメージの違いは大きく存在するのだが、小説の魅力である言葉で積み重ねていく深みとは違う、スピード、緊迫感など映画的なストーリ展開のうまさが良く出ているエンタティンメント作品なので、2時間半という長さを感じず、ハラハラ、ドキドキと楽しめる内容になっている。デンゼル、ダコタ・ファニングはもちろん、クリストファー・ウォーケンなど脇の役者も本当に素晴らしい。個人的には生きる希望を取り戻しつつあったクリーシーが、その希望を打ち砕かれることにより、非情なっていくシーンのすさまじさと、そのクリーシーの生きるべきなのかという迷い、緊張を演じきるデンゼル・ワシントンがとにかく印象的な作品だった(クリストファー・ウォーケンも印象的)。純粋に楽しめ、現実の問題も考えさせられる作品です。ぜひ、劇場に足を運んでください(そして、気に入ったら原作も読んでみてください)。
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