「ダムに沈む美しい村を舞台に、その村の記録を残そうと写真を撮る父親とアシスタントに借り出されたカメラマン志望の息子の邂逅の物語」
平成11年から進められた町村合併により、多くの村や町が消え去っている。これは合併に走る町村、そこを支援してきた国の財源不足という問題が必然的に生み出した状況である。合併により、自分たちの生活に目に見えて支障が生じるということはないだろうが、自分たちが暮らしてきた町村の名前、それを冠した学校などの名前がなくなることには、多少の感慨もあるだろう(合併に際してもそういった部分で揉めていることがある)。そういった町村合併以外にも大規模な開発で消えていく集落がある。よく聞いたのが、ダムに沈む村だ。今回紹介する作品『村の写真集』はダムに沈む計画を抱えた村を舞台に、父と息子のつながりを描いたヒューマン・ドラマである。
市町村合併にしても大規模開発にしてもなくなってしまう町村ではそれまでの歴史を綴った記録が本などの形で残されることになる。この作品はタイトルからも分かるように、ダムに沈んでしまう村に暮らす人々の写真を残そうと写真撮影をしていく日々、現場を背景に進んでいく物語である。
物語の舞台は徳島県の山間部にある美しい風景を持った小さな村。この村には村の存在がなくなる大規模なダム開発計画が持ち上がっており、大きく揺れていた。そんな村出身で、東京でカメラマンを目指し、アシスタント+カラオケ店のアルバイトとして働く青年は父親からの電話で田舎に戻ることになる。それは田舎で写真館を経営する父親のアシスタントとしての帰郷であった。父親はなくなってしまうこの村の人々の写真集を製作しようとしていたのだった。
出演は藤竜也、海東健、宮地真緒、甲本雅裕、ペース・ウー、大杉漣、原田知世、吹石一恵など。監督、脚本は『風の王国』で第8回福岡アジア映画祭グランプリを受賞し、その後も『SLAP
HAPPY』といった作品で着実に評価を獲得している若手監督 三原光尋。音楽は小椋佳、作品中で撮影される写真の監修には立木義浩があたっている。
ダムに沈む村を舞台としている作品ではあるが、ダムに村が消えることに対する反対やそのことを巡る政治的な混乱などが表面きって描かれることはない。あくまで、この作品が描くのは父と息子の関係である。本当に対照的な父と息子の関係は互いに葛藤をもたらしている(ま、大体においてそうなのだが)。お互いに正直なれない、すれ違いたくなる言葉の少ない関係。写真撮影が始まってもその関係は改善するどころか、悪化するばかりである。その関係が妹の存在やある出来事をきっかけに埋まっていく。それは半人前の写真家志望であった息子が父親のすごさに気付くことなのだが、そこには更に様々な状況が絡んでくる。その辺りは作品を観てほしいと思う。ただ、この葛藤の関係自体が消え行く村への思いを浮かび上がらせてくるということだけは付け加えておきたい。三原監督はこの作品について、アジアでの旅で見かけた父親とその息子が黙々と漁をしている、明日も以降も続いていくであろう姿から“宿命”という言葉が浮かび、それが生まれたこの国、故郷で生きることというテーマに結びついていったという意味合いの内容を語っている。それはストレートに言えば、故郷や家族などという自分自身の根っこの確認である。そして、その確認が必然的に自分自身を大きく広げていくことがある。それはこの主人公の青年にとっては父親との邂逅だったのだ。
また、立木義浩が撮ったであろう1枚1枚の写真、それに対応するような映画で捉えられた村の風景が本当に美しい作品でもある。写真がテーマとなっている作品だけに写真を撮るシーンは本格的で、そこに生まれる被写体とカメラマンが生み出す空気はとにかく印象に残る。そしてアンリ・カルチェ・ブレッソンにあこがれる息子、4X5の大判のカメラを持って、村の人々の写真を撮る父親はここでも相容れない世界の住人として存在している。でも、それは必然的に繋がっていき、息子にとってはブレッソンより父親という価値観へと移り変わっていく。
風景などの美しさを味わうためにも大きなスクリーンで観てもらいたい作品です。ぜひ、劇場に足を運んでください。 |