「アメリカ初の女性連続殺人鬼
アイリーン・ウォーノスの真実を描いたシャ−リーズ・セロンの熱演が光るアカデミー賞主演女優賞受賞作」
現在のハリウッドを代表する女優のひとりであるシャーリーズ・セロン。その美貌で多くのファンを掴んでいる彼女の変貌ぶりと2003年アカデミー主演女優賞をはじめ、ゴールデン・グローブ賞最優秀女優賞、ベルリン国際映画祭金熊賞最優秀女優賞など数多くの主演女優賞受賞が大きな話題となっている作品、それが今回紹介する『モンスター』である。
この作品『モンスター』は、1989年から1990年にかけて6件の殺人事件を犯し(自供し)、死刑判決を受け、2002年に判決通りの死刑が執行されたアメリカ初の女性連続殺人鬼
アイリーン・ウォーノスを描いている。作品が迫るのは、彼女がどうして連続殺人を犯さなければならなかったのかという事件の裏に存在したであろう真実(ひとつの見方)である。
製作者としても初めてクレジットに名前を連ねている主演のシャーリーズ・セロンは、アイリーンを演じるに当たり、今までの彼女とは別人と思えるほどの変貌を遂げている。アイリーンになりきるために、彼女は13キロ以上も体重を増やし、歯型、コンタクトレンズにより目の色、そしてメイクにより顔や体型を大きく変化させている(まるでロバート・デニーロのよう)。その変貌ぶりには、撮影のためのカメラテストの初日に多くのスタッフが、セロンであると気づかなかったという。実際、作品を観てもらうと分かるが、セロンが主演しているという事前情報を持っていなかったら、彼女だと認識できる人がどれだけいるのだろうかという位の変貌ぶりなのである。そんな彼女はアイリーンを演じるにあたり「最大の責任は、もうこの世にいない実在の人たちの人生を、誠実に敬意を表して演じることだった。この女性の気持ちに添えますように、頭で演技をしませんようにと祈っていた」と語っている。頭で演技をしないということが、彼女になりきるための変貌にあったことは間違いないだろう。
作品が描くアイリーンの真実は、連続殺人鬼の残虐な行為だけでなく、なぜ彼女がこうした犯罪を犯してしまったのかという部分にまで迫っていく。この作品が長編デビュー作となる女性監督
パティ・ジェンキンスは、獄中にいるアイリーン、アイリーンが再び連絡を取るようになった子供時代の親友と親しくなり、彼女が処刑される前夜にその親友に送り続けた手紙を映画資料として読む許可を得た。手紙には、子供時代のことや彼女の身に起こったことなどが克明に書かれており、セロンの役作りや劇中のシーンなどに大きく反映し、アイリーンが単なる残虐な犯罪者ではないという部分を浮かび上がらせている。監督は「アイリーンは多くの意味で想像を絶する被害者であり、その反面、犯罪者となり、罪のない人たちを殺害してその人生を奪ったのです。こうしたすべてを責任を持って描くことが、私にとって重要なことでした」と語っている。また、南アフリカに暮らしていたため、当時の事件の内容はほとんど知らなかったというセロン自身も、家庭内暴力の耐えなかった父親を母親が射殺するという余りにもショッキングな出来事を経験しており、虐待というトラウマを抱えるアイリーンを演じることはある意味で必然だったのかもしれない。
出演はシャーリーズ・セロンの他に、クリスティーナ・リッチ、ブルース・ダーンなど。
作品を観て、最初に目を奪われるのは、全く違う顔、太った後姿、ビッチな言葉遣いなど売春婦という役柄を熱演するシャーリーズ・セロンである。そんなセロンはもちろん圧倒的なのだが、彼女が知り合い、守ろうとする相手を演じるクリスティーナ・リッチも素晴らしい。セロンはもちろん、リッチにとってもこの作品は間違いなく代表作となるはずだ。自分の渇き、孤独を埋めるためにリッチ演じるレズビアンの女性セルビーを守り、愛し始めるアイリーン。セルビーを守るために、彼女は売春婦をやめ、真っ当になろうとするが、世間はその道を閉ざす。セルビーは自分が理想とした生活にならないため、アイリーンを責め続ける。自分の背負ってきたものや様々な状況に板ばさみになりながら、罪を重ねていくアイリーン。そこにあるのは、罪人は根っからの罪人なのか、普通の人間もあっさりとラインを超えてしまうのではないか、彼女だけが悪なのかなどという人間の罪というものを考えるときに必ず考えざる得ないテーマである。ちなみに、リドリー・スコット監督による『テルマ&ルイーズ』はアイリーンとセルビーのふたりを下敷きにして描かれた作品だという。ぜひ、劇場に足を運んでください。
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