「幻のコミックを様々な表現を駆使し、アニメーション化。トリップ感覚と幸福感に満ちた今までにない素晴らしい作品」
日本の映画界が確実に世界をリードしているジャンルのひとつにアニメーションがある。宮崎駿監督、押井守監督や山村浩二監督の作品、「ポケットモンスター」、「ドラゴンボール」などのTVシリーズなど様々な作品が人気を博し、高い評価を獲得し、クエンティン・タランティーノ監督の作品やウォシャウスキー兄弟の『マトリックス』シリーズなどハリウッド映画にも大きな影響を与えている。今回紹介する『マインド・ゲーム』もそういった日本発のアニメーション作品になるであろう作品である。
この作品『マインド・ゲーム』を製作したのは、日本を代表する精鋭的なアニメプロダクション
STUDIO4℃である。一般的には全くなじみのない製作会社だろうが、大友克洋の『MEMORIES』、『スプリガン』などの数々の劇場映画、TVCMなど幅広い作品を手がけている。そういった中でもウォシャウスキー兄弟とのコラボレーションにより映画『マトリックス』のアンソロジーアニメーション『アニマトリックス』は彼らの名を世界に知らしめた代表作といっていいだろう。ま、それほど、すごい製作会社なのです。当然、 そんなSTUDIO4℃が手がけたこの作品『マインド・ゲームス』を世界がほっておくわけがなく、すでにあのジョエル・シルバーが海外配給プロデューサーに名乗りを上げ、決定しているという。
この作品『マインド・ゲームス』の原作は知る人ぞ知る漫画家 ロビン西により1995年から1996年にかけて雑誌に連載され、熱狂的なファンと評価を獲得したコミックである。単行本化もされていたが、しばらくして絶版になってしまったという正に幻の作品であった(現在は復刊されている)。このコミックを映画化することになったきっかけが面白い。ある日、
STUDIO4℃のプロデューサーが作品の素材を受け取るために訪れた先で、このコミックを偶然手に取り、その内容に大きな感銘を受け、その場でこのコミックの映像化を硬く決意したのだという(映画の内容に重なるかのように、偶然が絶対的な意思をもたらしたのだ)。最初はアニメーションではなく、コミックのリアルさから実写で映像化するしかないと考えていたというが、監督に天才アニメータにして、この作品が長編初監督作品となる湯浅政明が決定したことにより、プロジェクトはアニメーション主体で動き出した。STUDIO4℃のスタッフはそれでも実写にこだわり、様々な案を練り始める。その気持ちは「普通のアニメにしたくない」という湯浅監督の気持ちと合致。もちろん、実写も導入されると共に様々なスタイルのアニメーション表現(2D、3Dはもちろん、こんなのっていいのかという隙間だらけの線画のようなものまで)を駆使して、今までにないトリップ感覚を味合わせるよな映像を作り上げてしまった。そして、そのトリップ感覚を盛り上げるのが、映像と一体化した音楽。これは関西アバンギャルドシーンの奇才にして顔役の山本精一が担当している(このセンスのよさ!)。
声優には、今田耕司、藤井隆、山口智充、坂田利夫などの吉本興業のタレントたちが参加している。原作が関西弁とはいえ、本人のキャラクターが強すぎたりと過剰になることも考えられる起用だが、この作品では違和感なくばっちりとはまっている(映像が実写にかぶるシーンは、キャラクターも彼らに変わるので、この辺も注目してください)。
物語のテーマは“勇気を持ってやればできる”という後ろ向きを前向きに転換し、走り切っていくというものなのだが、その部分に説教臭さが一切なく、リズムに強弱のついた映像のスピード感とそれに乗せられる音楽、様々な表現形態、アニメーションの技法で一気に感じさせられてしまう。これ本当にすごいです。この感覚を表せば、やはりトリップというしかないくらいぐらんと頭を揺さぶられます。当然、アニメ好きは観にいくと思うのだが、この作品に関してはアニメを観ない層、大人にこそ観て欲しい!頭の感覚をグラグラにさせられて、勇気を分けてもらえるような素晴らしい作品です。ぜひ、劇場に足を運び、この感覚を味わってください。
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