「日本映画を俯瞰して観ることが出来るすばらしい企画“この監督、この一本。”」
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▲『わが町』 |
30歳台後半以上の人なら、三鷹のオスカー、銀座の並木座、池袋の文芸座、ACTミニシアター(座椅子!)といった名画座で2本立や3本立で安く映画を観た経験をしているはずだ。少し前の映画や名作を定期的に特集上映している映画館、二番館、三番館(新作映画がロードショーが終わり、次にかけられる小屋ということでこういう風に言われているのだろう)と呼ばれる映画館
名画座。時代の波だから仕方ないのだが、そういった映画館も少しずつ消え、今ではわずかな数になっている。消えてしまった理由は採算が成り立たないということが間違いなく大きな理由なのだろうが、映画は映画館で観ることこそ意味があると思っている人、安く数多く観たいと思っている人にとって、それは大きな痛手であるはずだ。そんな状況でも、復活した新文芸座と早稲田松竹、アクション・サスペンス映画中心の新橋文化、三軒茶屋の2館、ギンレイホールや大阪のトビタシネマなど腰が痛くなる椅子のところも多いけれど、独自のラインナップを打ち出して頑張っている名画座もある。今回紹介するのは、そういった名画座としてはわりと新顔で、昔の並木座のように往年の日本映画を特集上映している映画館
ラピュタ阿佐ヶ谷の特集企画“この監督、この一本。”(前期)である。
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▲『プーサン』 |
今でも続いている企画“昭和の銀幕に輝くヒロイン”、成瀬巳喜男、岡本喜八、川島雄三という監督の特集上映、円谷英二の特撮に焦点を当てた特集上映や、ムービーネットでも取り上げた“あがた森魚の二十世紀映画館”、“撮影監督
岡崎宏三の軌跡”など興味をそそられる特集を数多く企画してきたラピュタ阿佐ヶ谷。今回の“この監督、この一本。”(前期)はそのタイトルがあらわすように、日本映画の歴史を彩ってきた映画監督たちのこれぞと思う1作をラピュタ阿佐ヶ谷のスタッフがセレクトし、1ヵ月半にわたって上映していくものである。ちょっと長いが、チラシに添えられたこの企画に対する文章を転記してみよう。
− 街から名画座という場所が消えていく・・・。時代を彩った数々の日本映画に想いをめぐらせてみる。あの作品の、あの場面。今回は贅沢にも、ひとりの監督につきひとつの作品を、吟味、厳選しました。定番中の定番、隠れた傑作、フィルモグラフィーの中でも異色の作品、作家自身の特別の思い入れに満ちたもの・・・など、ラピュタ阿佐ヶ谷が贈るオリジナル・セレクション。異論反論ございましょうが、それも当然。人の数だけ“この一本”。何度も見たい逸品がたくさん存在するのですから。−
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▲『墨東綺譚』 |
正直、この特集上映に関する説明や想いは、このチラシの文章だけで十分に伝わるのではないだろうか。今回の特集で取り上げられる監督は、島津保次郎、今村昌平、川島雄三、伊藤大輔、岡本喜八、斉藤虎次郎、鈴木清順、マキノ正博、市川崑、家城巳代治、加藤泰、工藤栄一、蔵原惟繕、小林正樹、衣笠貞之助、中川信夫、野村芳太郎、豊田四郎、吉田喜重、古沢憲吾、神代辰巳、稲垣浩の22人。なじみのある監督もいれば、ほとんどなじみのない監督もいるだろう。作品も第二次世界大戦前の1930年代のものから70年代半ばまでと幅広い範囲にわたっているが、その中でも大多数を占めているのは、日本映画の黄金期であった50年代、60年代のもの。カンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞した小林正樹の『切腹』、クレージーキャッツといったらこの監督
古沢憲吾の『ニッポン無責任野郎』、神代辰巳による日活ロマンポルノの代表作『四畳半襖の裏張り』、若き鈴木清順の代表作『河内カルメン』などほぼ週代わりで登場してくる名作、傑作の数々。“この監督、この一本。”に通うということは、日本映画を俯瞰することができるという素晴らしい企画でもあるのです(しかもめったに劇場では観られない作品ですし)。とにかく、ぜひ、劇場に足を運んでください。そして、7月から始まるという“この監督、この一本。”(後期)にも期待しましょう。 |