「ジョージ朝倉の人気コミックを若手監督、若手俳優たちにより映画化したちょっとキュンとする手紙に関するオムニバス作品」
パソコンのワープロ機能やeメールの普及により、大なり小なり文章を書く(読む)機会は確実に増えていると思う。でも、手紙などの文章をペンなどを使い書く機会は確実に減ってきている。ワープロが普及し始めた頃、ペンを持って書くことと、キーボードを打って書くことに何らかの差が出るのだろうかと考えていたことがある。どこかの記事で“そこには差がある”と読んだ気もするのだが、最初に持っていたこだわりはとっくの昔になくなってしまった(でも、今、こうやって打ちこんでいる文章もペンをもって書けば、多少の変化はあるのだろうかと考えている)。それでも大切な気持ちを伝えるための私信はペンを持って書く方が伝わる気がする。そういった中でも最も伝えたい大切な気持ちは恋心ではないだろうか。今回紹介する『恋文日和』はそんな恋心とラブレターにまつわる物語4本を集めたオムニバス作品である。
この作品『恋文日和』はジョージ朝倉による同名コミックの映画化である。1998年から「別冊フレンド」で読み切りという形で連載が始まったこのシリーズは現在も不定期連載中で、単行本も3巻まで刊行されているジョージ朝倉の代表作である。映画はこの原作コミックから『あたしをしらないキミへ』、『雪に咲く花』、『イカルスの恋人』という初期の人気作3本をセレクトし、これに映画のためのオリジナル・ストーリーである『便せん日和』をプラスした4本のオムニバス作品になっている。この4本の見せ方も『便せん日和』を3作品を繋ぐブリッジのように使用するなどなかなか上手い構成となっている。
監督、出演にはこれからの邦画を担うかもしれない若手たちが結集した。まず、『あたしをしらないキミへ』の監督は大森美香。脚本を中心にテレビドラマなどで活躍してきた彼女の劇場初監督作品である(現在(2004/12/3)、劇場初長編作品である『2番目の彼女』も公開中)。出演は『ロード88
出会い路、四国へ』にも主演している村川絵梨、「仮面ライダー龍騎」の弓削智久。『雪に咲く花』の監督は『ブリスター』の須賀大観。出演は「美少女戦士セーラームーン」の小松彩夏、TVドラマ「ウォーターボーイズ」の田中圭。『イカルスの恋人たち』の監督は岩井俊二監督などの作品で助監督を務めてきた永田琴恵。出演は『天国の本屋〜花火』の玉山鉄二、『CASSHERN』の塚本高史、本作が映画初出演となる當山奈央。『便せん日和』の監督はTBSのドラマで活躍する高成麻畝子。出演は本作が映画初出演となるNHK連続テレビ小説「こころ」のヒロイン中越典子、『ピンポン』の大倉孝二。
若手監督、若手俳優中心の作品となると拙さや力みが目に付く部分も多々あるのだが、この作品に関してはそういった部分をほとんど感じず、素直に観ることが出来た。それも原作の持っている空気を4人の監督が上手く映像に置き換えることが出来ているからだろう。そして、便せん専門店“てがみ屋”を舞台にしたオリジナル・ストーリー『便せん日和』を3話のブリッジのように組み入れた構成が本当にうまく機能している。全く別の内容なのに、このブリッジが次の話への導入部となり、この話自体も最後には独立した物語として成立していく。オムニバス映画にありがちな、単純に1話完了という構成にしなかったこと、撮影などのスタッフを共通としたこと、そして監督たちの作品への思い入れが、この『恋文日和』という作品自体の統一感を生み出しているのだろう。そうはいっても個々の作品のシチュエーション、出演者なども違うので正直好き嫌い、出来の差はある。でも、この『恋文日和』というオムニバス作品は全体の統一感を出せたからこそ、様々な形で心に訴えてくる作品になっている。1作の切り売りや、統一感を出せなければ、きっとそんな作品にはならなかっただろう。
僕自身は原作を知らなかったが、映画は期待以上に楽しめ、心温かく、ちょっと切なさなんかを感じてしまった。コミックを知っている人がどう感じるかは分からないが、原作者のジョージ朝倉自身も好きになったという。コミックのファンはもちろん、ちょっと切なく、感動する作品が観たいという人は、ぜひ、劇場に足を運んでください。きっと、いい気分に浸れると思います。
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