「アメリカで口コミから予想を超えるヒット記録した、死を目前に控えても続く愛する力の物語」
純愛ブームなのだという。本もベストセラー、映画も大ヒットした『世界の中心で愛を叫ぶ』、映画化も決定したというベストセラー『電車男』、“韓流”の火付け役となった『冬のソナタ』など、映画、TV、本などいわれてみれば、ここ数年のひとつの流れとして“純愛”がキーワードとなっていることは確かだ。何年かごとに繰り返すとはいえ、どうして“純愛”がここまで受けているのかは分からないのだが(そういった分析は様々なところで行われているはずだ)、初めての恋愛感情を呼び戻したり、単純に感動できるからだったりとその理由は様々なはずだ。今回紹介する『きみに読む物語』もそういった純愛作品のひとつとして加えられていくであろう作品である。
ある療養施設に暮らす初老の女性。そんな彼女のもとに定期的に通い、ひとつの物語を語り聞かせ続ける初老の男性がいる。それは、初老の女性と初老の男性が若かりし日々を過ごしたであろう時代のアメリカ南部を舞台とした恋愛の物語であった、というのがこの作品のストーリーの始まりである。その後、映画の舞台は彼が語り聞かせる物語、古き良き時代へと舞い込んでいく。“
この作品の原作となったのは、作家ニコラス・スパーク原作による小説「THE
NOTEBOOK」(邦題「きみに読む物語」)。1996年のデビュー以来、現在までに9冊(含、ノンフィクション1冊)の本を出版しているスパークはアメリカを代表するロマンス小説作家である。彼のデビュー作であるこの作品は56週にもわたり「ニューヨーク・タイムズ」のベストセラーリストに留まり、発行部数は450万部以上となっている。なお、彼の作品は今までにケビン・コスナー主演の『メッセージ・イン・ア・ボトル』(邦題
同タイトル)、マンディ・ムーア主演の『ウォーク・トゥ・リメンバー』(邦題「奇跡を信じて」)が映画化されており、これが3作目の映画化作品になる。
この作品『きみに読む物語』の映画化が動き始めたのは、ニコラス・スパークの小説がまだ市場に出回る前、ゲラ刷りの段階であった。そのゲラ刷りを読んだプロデューサー、監督であるニック・カサヴェテスなどは小説に感銘を受け、7年間という時間をかけて映画化に着手し続けた。完成した作品は2004年の夏に全米公開され、作品の内容の良さが口コミで広がり、予想もしていなかったヒットを記録している。
キャスティングに際しては「僕は俳優に多くを期待する。多くを与え、多くを望むんだ」と語るニック・カサヴェテス監督により選ばれた、『タイタンズを忘れない』のライアン・ゴズリング、『16歳の合衆国』のレイチェル・マクアダムスという今後の活躍が大いに期待される若手俳優ふたりに、『大脱走』、『墓石と決闘』のジェームズ・ガーナー、監督であるニック・カサヴェテスの母親でもある『グロリア』のジーナ・ローランズというベテラン俳優ふたり。映画の中では、初老の男女をジェームズ・ガーナーとジーナ・ローランズ、初老の男性が語る物語のカップルをライアン・ゴズリングとレイチェル・マクアダムスが演じている。
初老の男が初老の女性に物語を聞かせ続けるという療養施設での現実の世界、彼が語る物語の世界という2つの世界が重なりながら作品は進行していく。初老の男が語る物語の中にあるのは若きふたりの階層、波乱を越えた愛の物語である。なぜ、彼が老女にそんな物語を読んで聞かせるのかという部分は想像がつくかもしれないが、それは映画を実際に観て、味わっていただければいいと思う。時代の流行から、純愛というキーで括られる作品であるが、個人的には往年のハリウッド映画のような味わいを感じさせてくれる作品だった。とにかく印象的なオープニングに映し出される黄金色に輝く川の映像の美しさに導かれるように始まっていくこの作品は、全編がその川のようなゆったりとした流れと美しさに彩られながら進んでいく。そういった流れの中では汚さや不安といった部分も美しさにあく抜きをされていくように感じてしまった。監督のニック・カサヴェテスは、インディーズ映画の父といわれ、未だに多くの影響を与え続けるニック・カサヴェテスの息子でもあるが、そういった敬称はすでに必要ない作品を撮り続けているんだよなと納得してしまった。本当に美しい物語です。ぜひ、劇場に足を運んでください。
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