「カラオケの発明者
井上大祐の半生を描きながら、オヤジ世代への応援を送る作品」
世界中で通じる日本語を考えてみよう。“フジヤマ”、“ゲイシャ”、“スモウ”、“スシ”、“スキヤキ”、“ニンジャ”等々、パッと浮かんでくるものだけでも結構な数の単語がある。でも、そういった中できっちりと他国の文化の中で根付いているものを考えると、“スシ”、“スキヤキ”などの日本食、そして“カラオケ”になるのではないだろうか。今回紹介する作品は、その“カラオケ”の発明者の半生を描いた『KARAOKE-人生紙一重-』である。
“カラオケ”が世界の共通語だけでなく、世界の娯楽となっているのは多くの人々がご存知だろう。今や映画のワン・シーンでも“カラオケ”が登場するのは当たり前だし、旅行に行けば、その辺の飲み屋に“KARAOKE”という看板や手書きの文字が踊っている。実際に旅先で“KARAOKE”をやった方もいるのではないだろうか。ま、その“カラオケ”が日本人の発明によるもの、特許を申請し忘れたために桁外れになったであろう大金をふいにしてしまったこと、昨年(2004)、その名誉を称えられ“イグノーベル賞”(1991年い始まった「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる研究」に授与されるノーベル賞のパロディー版)を受賞したことを覚えている方もいるだろう。でも、この世界的な娯楽であり、発明である“カラオケ”を発明した人ってどんな人かというのはほとんど知らないのではないだろうか。この作品『KARAOKE-人生紙一重-』が描くのはそんな“カラオケ”の発明者である井上大佑の半生である。
1940年生まれの井上大佑は今年、65歳。現在も“カラオケ”以上になるかもしれない新たな商品の開発や全国での講演活動など勢力的に活動を続けている彼だが、特許申請を忘れてしまったという逸話からも伺えるかもしれないが、その半生は決して順風漫歩というわけではなかった。そういった彼の人生をリストラなどで苦境に立たされているオヤジ世代への応援歌として重ね合わせるように描こうとしたのがこの作品である。
主演はこの作品『KARAOKE-人生紙一重-』が映画初主演となるドラマに音楽にと活躍する押尾学。共演にバラエティーにドラマにと幅広く活躍するタレント吉岡美穂、。脇を宇崎竜童、室井滋、高田純次、ベンガル、蟹江敬三、小沢仁志、間寛平、山田麻衣子などの個性的な面々が固めている。また、特別出演として歌手の千昌夫、ナレーターとして星野仙一が登場している。
正直に言えば、井上大佑の半生とオヤジ世代への応援歌となるべき部分が寄り合いながらも交わることなく、どっちつかずの形で終わってしまったちょっと残念な作品だ。主人公の井上大佑は父親のコネでそれなりの会社に入社しながらも路上で見かけたロカビリー・バンドの演奏に惹かれ、入社式の当日に辞表を提出し、素人のまま、バンド活動へと入っていく。ビア・ホールでのハワイアン・バンド、自らの手で選んだ全国武者修行の旅へ出掛け、様々な困難と出逢いに恵まれるなど、その人生は正にサブタイトルにもある“人生紙一重”的なものだ。これと共に、井上の父親世代の苦境も描かれていく。それは離婚、リストラなど思うように行かなくなった人生である(時代背景などがズレまくっていることは大目にみよう)。こうした苦悩の人生にはあまりにも暗い部分と明るさを取戻す部分が描かれているのだが、彼らの人生と井上の人生がうまく交わってこないのだ。七転び八起き的な井上の半生をより丹念に描いていくだけで、笑いやオヤジ世代への元気も生み出せたのではないだろうかと思うのだが。役者陣の好演と井上大佑という人物の面白さに満ちた波乱万丈の半生があっただろうからこそ、本当に残念だ。それでも“カラオケ”の誕生秘話的な部分は興味深いし、勇気を与えられるオヤジ世代の方も多いのではと感じられる。こんな文章など気にせずに、興味をもたれたなら、ぜひ、劇場に足を運んでください。
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