「田舎町の家族を舞台に笑いと感動を人情というバタ臭さで包み込んだ全ての世代が楽しめる“韓流”版人情恋愛笑劇」
相次ぐ作品の公開、スターの来日フィーバーなど未だ熱狂が続く“韓流”の嵐。裏では「もうそろそろ終わりでしょ」みたいな言われかたもされているんだけど、こうしたブームゆえに色々な作品を観ることが出来るのは映画ファンにとっては嬉しいことでもある(ま、満腹感もあるのだけれど)。そんな“韓流”の主流となっているのがロマンチック・コメディである。正直、うんざりするような作品もあるが、軽快なテンポで笑いと感動をうまく織り交ぜながら描かれている“韓流”的ロマンチック・コメディは純粋に楽しめる内容となっているものが多い。今回紹介する作品『彼女を信じないでください』もそうした純粋に楽しめるロマンチック・コメディ作品である。
物語の主人公は仮釈放を手にした詐欺師の女性と、ある田舎町で薬局を営む青年。自らの騙しのテクニックで仮釈放を手に入れた詐欺師の女性と薬局を営む青年は電車の中で忘れられないような出会い方をする。それは青年が女性の股座に手を伸ばしているという状況だった。痴漢と勘違いされた青年だが、実は恋人への大切なプロポーズのために持ってきた指輪を彼女の股の間に落としただけだった。誤解が解け、そこで終わってしまうはずだったふたりの関係は、青年がスリに指輪をすられれる瞬間を女性が目撃したことから新たな展開となる。列車外へと降りたスリから彼女は指輪を取戻すが、そのことを知らぬ青年と彼女の大切な荷物は列車と共に行ってしまう。彼女は仕方なく青年の実家へと向かうのだが、そこでは様々な偶然が重なり、彼女は青年の婚約者と勘違いされてしまうというもの。この先の想像はつくだろうが、彼が田舎町の有力者(町長)の息子であること、田舎町独特の雰囲気が泥臭さといったらちょっとかっこよすぎる、温かみと下世話さがうまい具合に交じり合い、往年の東宝喜劇のようなバタ臭さのある従来の“韓流”的ラブコメとは一味違う作品に仕上がっている。
主演の女詐欺師を演じるのが『同い年の家庭教師』、TVドラマ「ロマンス」のキム・ハヌル、ちょっと不器用な育ちのよさを感じさせる青年を演じるのが『オオカミの誘惑』のカン・ドンウォン。この作品はTVドラマ「1%の奇跡」で大きな人気を獲得した彼の映画デビュー作である。監督はこの作品がデビュー作となったペ・ヒョンジュン。
韓国国内では『ブラザーフッド』、『シルミド』という日本でも大きな話題となった大作と同時に公開されながらも、120万人という観客動員を記録したこの作品『彼女を信じないでください』。ロマンチック・コメディが大好きだったという監督がこの作品を監督した経緯について「この脚本の持つコミカルさとロマンス、そして家族愛などのヒューマニズムに至るまで、近年ではなかなか見ることができない素晴らしい出来にすっかり魅了された。」と語っているが、コミカル&ロマンスだけでなく、家族愛をとりれたこと、それもそそっかしさに満ちた田舎町の家族愛を取り入れたことが、この作品の大きな魅力に繋がっている。それは先にも書いたいい意味での“バタ臭さ”である。
携帯電話も出てくるし、物語の舞台は間違いなく90年代以降なのだが、主人公の女詐欺師を演じるキム・ハヌルの格好や雰囲気、彼女を嫁として勘違いしてしまう田舎町の家族などにこの“バタ臭さ”は染み渡っている。考えてみれば、この作品の舞台となる町は、駅に入ってきた電車は電気で走る電車ではなく、ディーゼル車、埃臭さがあふれてしまうような田舎町だ。田舎町は都会に比べれば、親族などの人間関係が密だし、突出したことはやり難い空気に満ちている。それは煩わしくもあるんだけど、反面、慣れてしまえば、これほど心地いいものはなかったりもする。それをうまい言葉で表すと“人情”ということになるのではないだろうか。ロマンチック・コメディという枠に括られるこの作品は実は厚かましくも暖かい人情コメディ的な側面を持っており、その部分が大きな魅力となっている。父親に大きな威厳がある家族が持つ愛情、その愛情に取り込まれながら頑張ってしまう女性詐欺師、彼女の頑張りに次第に惹かれていく青年、この辺りがうまい具合に絡み合い、笑い、ほろっとした感動というハーモニー、波をうまく奏でていくのだ。田舎臭いんだけど、一途に頑張ってしまうキム・ハヌルの魅力が全開されている作品だが、カン・ドンウォンのファンにとっては彼の自然な優しさや歌のシーンなどは大きな魅力になるのではないだろうか。ここでの彼はカッコイイではなく、優柔不断だけど優しいという感じですね。日本映画が得意とした人情喜劇的な側面がうまく出ているので、どの世代が観ても純粋に楽しめる作品となっている『彼女を信じないでください』、ぜひ、劇場に足を運んでください。
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