「少年犯罪と少年法を焦点に被害者と加害者の家族の葛藤を描いたエンタティンメント・ドラマ作品」
先日、内閣府から発表された「治安に関する世論調査」で、9割近くの人が“ここ10年で日本の治安が悪くなった”、8割以上の人が“自分や身近な人が犯罪に遭うかもしれない不安が増している”と回答したことが大きな話題となった。そう感じさせる原因には様々な要素が絡んでいるのだが、その中でも大きなもののひとつとして挙げられたのが、犯罪の低年齢化傾向である。神戸の児童連続殺傷事件以降、大きな注目を浴びることになった少年による犯罪だが、今では当たり前のように名前のない少年、少女がニュースを賑わし続けている。もちろん、様々な検証も行われているし、そういった部分を描いた文学や映画(例えば、坂口香津美監督による『カタルシス』など)も数多く発表されている。今回紹介する『イズ・エー[is
A.]』もそういった少年犯罪に端を発して生まれた作品である。
この作品の主人公は、無差別殺人を犯した少年、その少年を更生させようと日々を生きる父親、少年の犯罪により愛する家族を失った刑事である。ある夜、渋谷で爆破事件がおきる。その事件の犯人は“ホーリー・ナイト”と名乗る14歳の少年だった。多くの者の命を奪い、人生を狂わせた彼の犯罪、その中には家族との夕食のために居合わせた刑事がいた。そして少年の家族も別離を余儀なくされた。4年という月日が流れ、出所した少年に対し、父親は更生という大きな責任を負いながら暮らし続け、痛みを忘れられぬ刑事は更生に対し、疑問を呈し続ける。少年を巡り、対峙し続けるふたり。そんな矢先にひとつの事件が起きる・・・・というのが、この作品のストーリーだ。
神戸の児童連続殺傷事で14歳の少年が犯人であったということの衝撃以上に社会復帰出来るという事実に突き動かされたという監督の藤原健一。この作品は『暗黒街〜渋谷ミッドナイト・ウォー〜』、『野良犬』など多くのVシネマ作品の監督などとして活躍してきた彼の劇場映画デビュー作品である。藤原監督は作品の発端について「少年があれほど残虐な犯行をしたのに社会復帰出来るという報道を耳にした時、この犯人の父親は、被害者の遺族はどう思うだろうか。現実に存在するこうした事実。そして、その事実に対する疑問、その事実に直面する人間の怒り、哀しみ、痛みをストレートに描きたいという思いからこの作品を撮りたいと考えていました。」と語っている。そういったテーマを持った脚本は人物像の描き方などで大いに難航し、最終的には30稿くらいまで書き直したという。完成した作品について藤原監督は「答えや何もかも伝えるのではなく、観た人の心深くに訴えかける映画にしたいと思っていましたので、色々な人が色々な解釈をすると思います。そして、この物語は“被害者の子供は死んでいなくなり、犯人の少年は少年法で守られ社会復帰し、生き続ける”という理不尽な現実に直面した人間たちの生き様、感情こそが最も描きたかった部分です。」と語っている。
出演は、刑事役にこの作品が初主演作となる日本映画界には欠かせない名バイプレイヤーの津田寛治、犯罪を起こす少年役に『ロボコン』などで注目を浴びる若手俳優
小栗旬、少年の父親役にほぼ同時期に公開される『リバイバル・ブルース』も印象的な、やはり日本映画界には欠かせぬ役者である内藤剛志。その他、戸田菜穂、水川あさみ、姜暢雄、伊藤かずえなど。
“神戸の児童連続殺傷事件に触発された”、“被害者の子供は死んでいなくなり、犯人の少年は生き続ける”という部分、少年による犯罪とその生み出したものをテーマとした作品というと“重さ”が圧し掛かるだけの作品かと考える方も多いと思うが、この作品は違っている。テーマの重さをエンタティンメント・ドラマとしてうまく描いているのだ。エンタティンメントとしてのストーリー展開に重きを置いた分、どうしても少年をはじめとする登場人物の心の機微など深みにかける部分がある。でも、この作品は少年法、加害者家族、被害者家族というものについて、考えざる得なくなる深さをきちんと持っている。エンタティンメントに満ちたドラマとしても楽しませながら、こういう部分を考えさせる作品というのは希少ではないだろうか。この辺りの藤原監督の手腕には今後への大きな期待を抱いてしまう。そして初主演となる津田寛治も好演だが、それ以上に素晴らしいのが少年の父親役を演じる内藤剛志である。少年犯罪に対するひとつの回答を示したクライマックスでの彼の凄まじさは必見であるし、彼にとっても代表作となる作品だろう。重いテーマだと敬遠せずに、この面白さをぜひ、劇場で味わってください。 |