「香港映画史上に金字塔を打ち立てた男たちの過酷な生き様の物語『インファナル・アフェア』シリーズの最終章」
経済に併走するように完璧に低迷していた香港映画界に勢いを取り戻す兆しとなった作品が『インファナル・アフェア』だった。この作品で香港映画の持つ魅力に気付いたファンも多いのではないだろうか。その後、元々は製作する予定のなかった『インファナル・アフェアU/無間序曲』が公開され、遂に待望の(そして名残惜しくもある)最終章が公開されることになった。今回紹介する作品はもちろん、その最終章『インファナル・アフェアV/終曲無間』である。
潜入捜査官として黒社会の一員となっているヤン、逆に黒社会から警察に送り込まれているラウ。このふたりの葛藤を軸に進んでいったスリリングな第1作『インファナル・アフェア』、第1作でもシークエンスとして挿入されていたこのふたりの若かりし日々と親代わり的人物が黒社会の顔役にまで上り詰めていく様を描いた第2作『インファナル・アフェアU/無間序曲』、そして、この最終章である『インファナル・アフェアV/終極無間』が大筋として描いていくのは、第1作以降の物語である。それは当然、生き残った者の物語であり、生き残った者の脳裏に浮かび上がるシーン、新たに登場してくる者たちから明らかにされていなかった過去の出来事の真実が浮かび上がってくる物語となっている。そのドラマの奥深さに嵌まり込み、次作に大いなる期待を抱かせた第1作は当然だが、過去の物語であった第2作もそれ自体が単体の作品として存分に味わうことの出来る作品だったが、この最終章に関しては独立した物語としての楽しみ以上に過去(特に第1作)との連なりが大きな比重を占めている。映画が始まると自分の頭の中に第1作目の記憶が必然的に甦る作りとなっているのだ。だから、個人的にはこの最終章『インファナル・アフェアV/終極無間』を観る前にはなんとしてでも第1作目は観ていて欲しいと思っている。それだけで、作品に対する面白みが何倍にも倍増されるはずだ。共同監督、共同脚本のアラン・マックも「『インファナル・アフェアV/終極無間』は第1作で語りつくされることのなかった前後の物語や事の真相を明るみに引き出します。そしてさらに新たな謎を提示し、関係性を解き明かすのです。最終章によって、観客は壮大な物語の全貌を理解し、ラストの大きな衝撃に唖然とするに違いありません。」と語っている。
警官として生き残ることを決意したラウ。そのためにラウは黒社会から警察内部に潜入している一味を自らの手で処分してきた。そこに新たに登場してきたエリート警視のヨン。ラウは彼も黒社会の一味と睨み、独自の捜査を始める・・・・というのが、この作品骨子となるストーリーである。そこに亡くなる前のヤンの話が絡んでくる。それはヤンに特別な想いを寄せる精神科医のドクター・リーの想いであり、ラウ自身がヤンに抱く気持ち、羨望の眼差しでもある。そういった中で過去の謎が解け、物語自体も思わぬ方向へと走り出していく。
出演はラウ役のアンディ・ラウ、ヤン役のトニー・レオン、ドクター・リー役のケリー・チャンというおなじみの面子にプラスして、ヨン役にこれまた香港映画界を代表するスターであるレオン・ライなど。もちろん、エリック・ツアン、アンソニー・ウォン、カリーナ・ラウ、サミー・チェンといった第1作、第2作のおなじみの面子も出演している。
映画の物語の中に入り込んだ瞬間、1年以上前に観た『インファナル・アフェア』の記憶を頭の中に呼び戻しながら観ていく展開となったのが、この最終章である『インファナル・アフェアV/終極無間』だった。もちろん、そこに展開される物語はこの上なく濃密で、残酷であり、その残酷な運命に胸を打たれる内容だ。警察で生き残ることを決意したラウ、そのために黒社会から警察への潜入者を自らの手で処分していくのだが、そこにヨンという疑わしさを持つエリート警視が登場する。そういった中で自分と全く逆の立場であったヤンを殺した時の状況、気持ちが自分に覆いかぶさってくる。目の前の疑わしいヨンの存在とすでにいないヤンの存在、そして自分の使命に心が揺れ始めるラウ、そのラウの心理の描き方と演じるアンディ・ラウが本当に素晴らしい。この最終章は壮大な物語の謎解き的な部分も魅力(だから第1作を観とくべき)だが、最大の魅力はこの心理的な揺れである。それは第1作、第2作で描かれてきた過酷な生き方を経てきたからこそ、生じてくる心理的な揺れである。エンディングを観て、これで終わったんだという気持ちと同時に、また第1作、第2作と観たくなる秀逸な最終章だ。コッポラの『ゴッドファーザー』シリーズとはまた違った意味での壮大な男たちのクロニクルであるこのシリーズの最終章、ぜひ、劇場に足を運んでください(ちなみにこの後に来るはずのハリウッド・リメイクは何故か期待よりも不安が大きい)。 |