「『ブレイド2』のギレルモ・デル・トロ監督による戦争の愚かさを根っこに描いたホラー作品」
『ミミック』、『ブレイド2』で多くの映画ファンを掴んだメキシコ人映画監督ギレルモ・デル・トロ。ハリウッド映画の大きな流れのひとつであるアメコミを映画化した新作『ヘルボーイ』もこの秋に公開される。そんなデル・トロ監督が出世作である『ミミック』と『ブレイド2』の間に撮っていた作品がやっと公開される。それが、今回紹介する作品『デビルズ・バックボーン』である。
実はこの作品『デビルズ・バックボーン』は海外での評価も高く、一部の熱狂的なファンの間ではずっと公開が待たれていたホラー作品である。ただ、この作品は「怖い、恐ろしい」という単なるホラー作品では片付けられない深いドラマを持っている。
舞台は1930年代末の内戦に揺れるスペイン。内戦で両親を失ったある少年が、人里離れた荒涼とした土地にある孤児院に連れてこられる。内戦下、様々な事情を抱えた孤児院の教師や管理人たち、そしてそこに暮らさざる得ない孤児たち。少年は古参の孤児たちのいじめにあいながらも信頼を勝ち得ていく。そして、そんな孤児院にはもうひとつの影、ゴーストが存在していたというのがこの作品のストーリーである。
荒涼とした太陽のまぶしさと抜けるばかりの青空のみが目立つ台地に建つゴシック調のおどろおどろしさを感じさせる孤児院。得体の知れない教師や管理人たち。タイトルにもなっている気色悪い飲み物。夜になると聞こえてくる啜り泣きのような声。誰も触っていないのに動き始める物体などホラー的な要素を詩的な映像で描いていく前半部分はじわりじわりとこちらの恐怖感をあおっていく。しかし、そういった恐怖感は後半になるに従い、その様相を大きく変化させていく。恐怖ではなく、登場人物それぞれが持ったドラマ、深みが生まれてくるのだ。これは孤児院に居つくゴーストにしても同様である。
出演は、『オープン・ユア・アイズ』のエドゥアルド・ノリエガ、『オール・アバウト・マイ・マザー』のマリサ・パレデス、『死んでしまったら私のことなんか誰も話さない』のフェデリコ・ルッピなど。製作にスペイン映画界の巨匠ペドロ・アルモドバル監督(彼の創設した製作会社エル・デセオ・S.A.)がかかわっているのも大きな話題である。
ゴシック調の建物の不気味さ、得体の知れない登場人物などホラー的な要素を盛り上げながら、この物語が進んでいく先にあるのは戦争というものが生み出してしまった悲しみと恐怖である。ホラーというスタイルを取り入れながら、この作品は戦争という事態に翻弄されなければならない人々の悲しみや恐怖というものを描いているのだ。戦争は愚かな行為であるということは分かりきっている。それが国と国を分けて戦うという内戦という事態であれば、尚更である。戦争により、孤児院に暮らさざる得ない子供たちはそれだけで何らかの傷を負っている。内戦の中で自分たちの行き先に活路、自由を見出すために大人たちは嫌でも戦いに入り込まざる得ない。そして、そんな戦争に翻弄されたゴーストがこの孤児院には存在する。
デル・トロ監督はこの作品について「この映画は大変思い入れの深い作品であり、どう表現してよいのか話すのが難しい」としながら、「私は戦争がすべてを侵略するその様を見たかった。すべてが恐怖で染まる。恐怖を感じると我々は子供に帰る。戦争の物語とは所詮、亡霊に満ちたものなのである。」と語っている。
デル・トロ監督のファン、ホラー・ファンはもちろんですが、ホラーはいまひとつ苦手でと感じている方にこそ観てもらいたい深みのある作品です。ぜひ、劇場に足を運んでください。 |