「富める国とそうでない国。養子縁組を軸にそうした状況を描くジョン・セイルズらしい群像ドラマ」
あのロジャー・コーマンのもとで『ハウリング』、『宇宙の七人』などのシナリオを書き、ベトナム反戦運動後の若者たちの再会の物語を描いた『セコーカス・セブン』で監督デビューを果たしたジョン・セイルズ。その後、脚本家としても活躍しながら、『ブラザー・フロム・アナザー・プラネット』、『希望の街』といった社会派の群像ドラマを中心に作品を撮り続けているアメリカン・インディペンデントを体現する監督のひとりである(日本で最もなじみのある作品は彼としてはちょっと異色な『フィオナの海』だろう)。今回紹介するのは、日本では本当に久々の劇場公開作(『フィオナの海』以来10年ぶり!)となるジョン・セイルズ監督の新作『カーサ・エスペランサ
〜赤ちゃんたちの家〜』である。
孤児の赤ちゃんを養子にもらうために、南米のとある国を訪れている6人のアメリカ人女性。置かれている立場も性格も全く違う6人が宿泊しているホテル。そのホテルの女性オーナーと彼女の一人息子、そこでメイドとして働くひとりの現地人少女と彼女を取り巻く家族やボーイフレンド。ファミリー・ドラマのように誰もが仲睦まじくしているわけではないが、彼らがどこかですれ違ったり、接したりすることによって動き出す世界。このドラマは、ジョン・セイルズがお得意とする社会派の群像ドラマである。
養子縁組をひとつのテーマとした映画を撮ろうとしたきっかけについて、ジョンセイルズ監督は「ベトナム戦争の最後の日にサイゴンから孤児の赤ん坊たちを“救い出す”という名目で空輸したクリスチャン・グループについてのドキュメンタリーを見たのが始まりだった。そして、赤ちゃんを養子としてもらいうけるため長い時間がかかることに対して、不満を口にしている男性の会話もきっかけとなった。そして、私の周りにも養子をもらった友人が何人かいる。つまり、養子縁組というのは私にとってごく身近な問題だったのだ。」と語っている。そして、この作品では想像以上に身近だったという養子縁組問題だけではなく、そこから派生する周辺の問題、現実にまで視野を広げている。
出演は、アメリカから養子をもらうためにやって来た女性役にマギー・ギレンホール、ダリル・ハンナ、マーシャ・ゲイ・ハーディン、スーザン・リンチ、メアリー・スティーンバーゲン、リリ・テイラーの6人の女優たち。マギー・ギレンフォール以外は30代以上の女優たちである。セイルズ監督は「これで映画の95%は出来上がった」と語ったキャスティングについて「アメリカには非情に素晴らしい女優たちがいる。特に30歳を過ぎた女優にね。しかし、ハリウッドでは彼女たちがやりたいと思うような役がなかなかない。」と映画『デブラ・ウィンガーを探して』で女優たちがそろって告発していたことを語っている。作品の背景もあるだろうが、彼にとって女優たちがこの一味変わった役柄を演じるのを見ることは最高の楽しみでもあったという。
この作品には物語らしい物語はないし、これだという主役もいない。6人のアメリカ人女性は養子を貰い受ける日を待ちながらそれぞれに悶々とした日々を過ごしているし、ホテルのメイドは働き続け、ストリートチルドレンはわずかのお金を楽しみに費やし、いつものように野宿をする。これは登場している人物の日常を描いていくドラマであるから、彼らすべてが主役のドラマであるとも言える。6人のアメリカ人女性はもちろん、彼女たちが買い物をする屋台のおばちゃん、ストリートチルドレンや彼らに窓ガラスを拭かれる車の運転手たちも主役なのだ。そして、そうすることで見えてくる大きな縮図が南北問題、グローバリゼーションの問題なのである。ジョン・セイルズ監督はそうしたいち部分を端的に描き、こちらに“どう感じる?”と提示している。もちろん、これは母親になりたい(なりたくてもなれない)という女性の切実な想い、願望を描いた作品でもある。ただ、僕自身にとっては南北問題という部分の方が大きく突き刺さってきた。色々と考え、感じさせるジョン・セイルズらしい群像劇『カーサ・エスペランサ
〜赤ちゃんの家〜』。ぜひ、劇場に足を運んでください。 |