「世界的な評価を獲得しているカナダの奇才映画監督アトム・エゴヤンの全貌を回顧できる特集上映」
今年(2004)も東京国際映画祭が開催される。今回からは従来の渋谷にプラスして六本木もメイン会場に使用されることになったのだが(移動は少し大変そうだね)、この映画祭のもっとも大きな話題はハリウッドをはじめとするスターの来日だろう。今年もグウィネス・パルトロウ、スピルバーグ監督、トム・ハンクス、チェ・ジウ、イ・ビョンホンなどの多くのスターの来日が予定されている。これらのスターの来日に加えて、映画ファンにとっては一足早く話題の作品を観ることが出来るという部分も大きな魅力だろう。また、この映画祭に合わせて、20周年を迎えた「東京国際ファンタスティック映画祭2004」、「第3回東京国際CG映像祭」様々なイベント、シンポジウムなども開催されている。こういった特集に注目されている方も多いのではないだろうか。今回紹介するイベントもこの東京国際映画祭に合わせて開催される『アトム・エゴヤン映画祭2004』である。
まず、アトム・エゴヤンという映画監督をご存知だろうか。カナダ人の映画監督である彼の作品は、カンヌ国際映画祭で批評家協会賞を受賞した『エキゾチカ』(1994/日本公開は1997)以降の劇場長編作品はすべて日本でもミニシアター系で劇場公開されているので、ミニシアターが大好きという映画ファンにとってはおなじみの名前なのかもしれない。でも、一般的にはその名前は浸透しているとは言えないだろう(実際、町中のレンタルビデオ店でその作品を見つけることも難しいはずだ)。アトム・エゴヤン監督は1960年にエジプトのカイロに生まれている。両親は亡命アルメニア人。アトムという名の由来は“反核の象徴”として付けられたという。3歳のときにカナダに移住。幼少の頃のエゴヤンは両親の話す言葉などアルメニア文化というものをかたくなに拒否していたという。10代の頃には戯曲に熱中し、18歳のときにトロント大学トリニティカレッジに入学。外交官になろうと国際関係学を学ぶうちに、自分のルーツであるアルメニア文化を意識し始め、アルメニア学生協会に参加。同時に映画にも関心を抱き、19歳のときに初めての短編映画『ハワードの送別会』を発表。この作品が高い評価を受け、それ以降映画の製作にのめりこむ。大学卒業後は、トロントの劇場に戯曲作家として参加するが、やはり舞台より映画に惹かれていき、学生時代の最後に製作した『オープン・ハウス』が大きく評価されたことを契機に映画制作を本格的に開始する。1984年に初めての長編作品『Next
of Kin』を発表。1987年に長編第2作目の『ファミリー・ビューイング』を発表。モントリオール国際映画祭のオープニング作品に選ばれたこの作品は、同映画祭で最優秀作品賞を受賞した『ベルリン・天使の歌』のヴィム・ベンダース監督に「この賞は『ファミリー・ビューイング』のアトム・エゴヤンに与えられるべきだ」と賞を辞退し、大きな話題となる。その後、作品を発表するたびに大きな評価を獲得してきた。そんなエゴヤン監督が国際的な評価を獲得するのが、日本でも初公開作品となった『エキゾチカ』だった。
この簡単なバイオグラフィーを読んでもらえば分かると思うが、エゴヤン監督にとってはアルバニア人であるという生い立ち、しかも国というものを出ざる得なかった亡命アルバニア人であるということが大きな影響を与えていることは間違いない。そういった部分をさらけ出した作品が昨年(2003)に公開された作品『アララトの聖母』だった。トルコ(オスマン帝国)によるアルメニア人大虐殺を描いたこの作品は、その史実を単純に描くのではなく、現代に生きるアルメニア人と過去に生きたアルメニア人を交差させながら描いていく作品であった。国際的な評価を獲得した『エキゾチカ』、続くカンヌ国際映画祭グランプリを受賞した『スウィート・ヒアアフター』、『フェリシアの旅』でもエゴヤン監督の作品にはそうした要素が散りばめられている。その辺りから分かり難いという印象をもたれてしまっているのかもしれないが、いかがわしさに満ちたミステリーである『エキゾチカ』以降日本公開された全ての作品は、観終わった後もずっと体の内に残っているような独特の味わいがある作品であった。今回の『アトム・エゴヤン映画祭2004』では、エゴヤン監督の劇場未公開作品を含む代表作6作品と未公開短編が上映される。彼の全ての作品が観られるわけではないが、これまで欧米並みの高い評価(と収益)を獲得してきたとはいえないエゴヤン監督の作品を再発見するにも初体験するにも最高の機会であると思う。(裏)東京国際映画祭として、この特集上映、お勧めします!ぜひ、劇場に足を運んでください。
|