『尾道から臼杵へ。新世紀大林映画のスタートである。』
大分県臼杵市は古い小さな美しい町。日本の高度経済成長期にセメント工場の企業誘致を市民運動で阻止し、開発という名の破壊から古里の緑を守った人びとが暮す町だ。市民はそれを痩せ我慢と言うが、それ故に「武士は食わねど」の背筋が伸びた、凜とした美しさが特徴的である。古里尾道を中心に二十五年に亘る「町守り」映画を作り続けて来た大林宣彦は、二十一世紀の映画活動をこの臼杵から始めた。表題となった『なごり雪』は、今から二十八年前、臼杵市の隣町津久見を古里とする伊勢正三によって、その津久見駅のホームを舞台に作られた唄だ。津久見市は豊かな資源としての石灰岩を持つ地形にあり、古くから日本有数のセメントの町として栄えた。つまり臼杵とは異なる歴史を辿った訳で、今回の物語の舞台を「臼杵駅」に移し変えた事については伊勢正三の思いもまた様ざまにあるだろう。監督は何時の日か、この津久見を舞台にした映画を、と考えつつ今回は敢えて「臼杵映画」とした。主演に50歳を迎えた三浦友和。彼の旧友・水田役に『異人たちとの夏』『水の旅人』などのベンガル。ヒロイン・雪子には新人の須藤温子が起用された。 |