「9月11日の同時多発テロを、僕は、悲しみと恐れと怒りの入り交じった気持ちで受け止めた。」
「
その思いは、テレビ中継が被害者の増加を報じるにしたがって深くなった。しかしそれから数日、数週間とたつうちに、当初の強烈な実感は、いらだたしい距離感と葛藤を始めた。ブッシュ政権が独善的で盲目的な愛国心をもって反応し、抑制のきかない軍事力行使につながるに及んで、そうした感覚はいっそう強まった。」監督のジャン・ユンカーマンはそう語る。まもなく登場したのが、ノーム・チョムスキーの著書『9.11』だった。山上徹二郎プロデューサーと彼は、彼の主張を伝えるべきだと考えた。そして3回のインタビューを受けてほしいと依頼した。だが、チョムスキーからの返事は、映画の企画は支持するが、実現はむずかしいという内容だった。インタビューの時間がとれるとしても、何ヶ月後かに、オフィスで1回だけだろう。しかし、今後数ヶ月の間に何度も講演を行なうことになっているので、それを撮影するのはかまわないという。2人はいくつかの講演を撮影し、長いインタビューを1回行なうことで同意。しかし、公的な活動風景を撮るだけで「チョムスキーその人」を描き切れるのかどうか心配だった。やがて彼らは、それこそが「チョムスキーその人」であることを知った。チョムスキーは語る。人々に語ることこそが彼の日常生活であり、人生を通じて絶え間なく行なってきたことなのだ、と。 |