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原作は、第8回手塚治虫文化賞漫画大賞を受賞した岡崎京子の同名コミック。タイトルの「ヘルター・スケルター」は、ビートルズが1968年に発表したロックミュージックから引用したという。イギリスでは「らせん状の滑り台」の名称だが、言語的には「狼狽する」「混乱した」という意味を持つ。
物語は、全身整形のスーパーモデルが、後遺症に狼狽し、転落への焦りから混乱をきたす様を描いた、まさにヘルタースケルターだ。実力派女優でありながらスキャンダルに翻弄されている沢尻エリカが、ヒロインりりこに扮し、磨かれた肢体と小悪魔的なまなざしで観る者を圧倒する。
世間から注目され、崇められ、甘やかされることを望む女の子にとって、ファッションモデルは命を賭けても惜しくない夢だ。だからりりこは、手に入れたスターの座を、どんな手を使っても守ろうとする。 マスコミのフラッシュを浴び、嬌声の中に立つと、人は天にも上る心地よさで感覚が麻痺してしまう。傲慢が身体を支配し素顔の自分を拒否するようになる。そんな彼女に、従順なマネージャーは哀れなほど振り回されるが、狡猾な業界人たちは平然と彼女を利用する。「それがギョーカイさ」とひとくくりにはできないが、会話の端々にリアルな事実がポツポツ見えて背中に旋律が走る。さらに美容整形の歪みを検察官が探りはじめ、サスペンスを孕んだ空気はますます張りつめてゆく。
背景はやたらと赤い。写真家でもある蜷川実花監督の、大胆で艶やかな絵創りは強烈だ。窓のないりりこの住まいは、まるでひと昔前のラブホテルだが、その毒々しさがゆがんだ孤独感を強調し、後に登場する屋上の解放感を強く印象づける。青空の下、アイラインをくずして本音で泣き叫ぶりりこの表情はことのほか愛らしい。だがメディアの世界にあこがれて流行を追う少女たちには、おそらくその美しさはわからないだろう。
<合木こずえ>
7月14日(土)丸の内ピカデリーほか全国ロードショー