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冒頭は夜のパリ。凱旋門から放射状に広がるエトワールの輝きを俯瞰でとらえたキャメラは、ちりばめられた宝石をなぞるようにパリの上空を舞い、風格ある駅舎の中へと入ってゆく。たどり着いたのは駅構内にそびえる時計台の内部。そこに住むヒューゴが隙間からホールを見下ろすと、数多の人々が忙しなく行き交い、にわかに画面が熱気を帯びてくる。騒然とした光景の活気に気圧されつつ、われわれはすでに物語に没頭し、ときめきを覚えながらヒューゴの素早い行動を追いかける。
時計職人の父親が生前取り憑かれていた壊れた機械人形と、その修理方法を記したノートを宝物に、ヒューゴは時計のネジを巻きながらひとりぼっちで生きている。ある日、彼は駅構内のオモチャ屋でゼンマイ仕掛けのねずみを見つけ、思わず手を出して店主に捕まってしまう。ポケットの中身をすべて出すよう命じられたヒューゴは、大事なノートも取り上げられるが、ページをめくった店主は見る見る顔色を変える。
ここまでが序破急の序。オモチャ屋で働かされることになったヒューゴは、ノートを取り戻そうと動き始め、物語は彼を取り巻く人々も映し出しながらテンポを上げる。店主の名はジョルジュ・メリエス。過去を封印したかのように寡黙に生きる老人は何者なのか、わずかにミステリーを含み「破」から「急」へ向かう画面は緊迫感を伴い実に精巧で、一瞬たりとも目が離せない。
そうして迎えるクライマックスで思いがけず溢れ出る涙。マーチン・スコセッシ監督が、なぜ3D映像にこだわったのか、なぜこの作品を作りたかったのか、その意味がストンと胸に落ちて感無量になる。
映画を観る前に知っておくべきは「世界初の職業映画監督」ジョルジュ・メリエスの存在と功績だ。19世紀後半、マジシャンとして成功を収めていたメリエスは、やがてリュミエール兄弟の「シネマトグラフ」に影響され映画製作に乗り出した。映画にストーリー性をもたらし、マジックの技術と感覚を駆使してエンターテインメントを追求し、多重露光やディゾルブ、ストップモーションを取り入れて作り上げた映画は500本にも及ぶ。1902年の作品「月世界旅行」は、世界初のSF映画として映画史に刻まれ、月にロケットが刺さった写真はあまりにも有名である。
タイトルから想像すると、まるで子ども向けの冒険スペクタクルだが、この作品の醍醐味を存分に味わえるのは、人生経験を積んだ大人だけだ。作品の真のテーマを知り、映像のすべてを知り尽くしたスコセッシ監督の意図に気づくとき、観客はまるでパズルが解けた時のような満足感を得ることだろう。
映像製作を心から愛する映画人たちは、きっとこの作品にオスカーを与えるはずだ。
<合木こずえ>