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人間が危機にさらされた時、死にたくないと願うのは、死への恐怖心だけでなく、生きなければならないという本能が働くからだ。それは貪欲に身体を揮い立たせ、生きてやる! という強い意志をもたらす。
「年寄りは邪魔だ、食いぶちを減らせ」という村の掟で山に捨てられたメイ(草笛光子)が、雪の中で起き上がり、遮二無二生き延びようと行動を起こすシーンが印象的だ。死人の衣を肩にかけ、樹液をなめ火を起こし川魚を焼いて食べる。やがて雪が解け、林の中に春の花を見つけた時の嬉しそうな顔。生きている歓びを身体全体で表現する草笛光子の笑顔は童女のようだ。メイは、こうして「お山」の奥で生きる術を覚え、ひとり、またひとりと捨てられる老女を助けて女だけのコミュニティ「デンデラ」を作り上げる。
浅丘ルリ子扮するカユがここに加わった時、メイは100歳になっていた。だがカユは、村の掟に従って一刻も早く極楽浄土へ行きたいと願い「なんで助けた」とメイに詰め寄る。とはいえ「お山」に捨てられ静かにあの世に行きたいと願うのは、決して本音ではない。カユは「デンデラ」を何度も襲うクマに立ち向かいながら、自分の中にみなぎる「生きる力」を見出していた。
78歳の草笛光子が逞しい。軽やかな身のこなしと張りのある声は、とても100歳の設定に見えないが、実年齢を思い出しても信じがたい若々しさだ。本当に俳優とは人に非ずの優れた才人である。マタギの知識を持つヒカリ役の山本陽子も良く動く。こちらは69歳。長年の舞台で鍛えた喉と身体の柔軟性は白眉と言える。そして不思議な魅力を発揮するのが主演の浅丘ルリ子だ。見かけは老女だが、あの声と華奢な体躯のせいか、枯れた「老い」を全く感じさせないのである。瞬きをしない目力の強さとその輝き、きりりとした立ち居振る舞いには大女優のオーラがあり、何度もドキリとさせられる。
死ぬために「お山」に連れて来られて、生き延びた老女にとって「デンデラ」は豊かでなくても桃源郷のようなもの。鳥やウサギ、魚を仕留めて貯蔵し、木の実をつぶして団子を作り、魚の骨を櫛にして髪も梳く。横暴な男どもにビクつくことなく、自由を手に入れた第二の人生。それぞれが個人を尊重し、フルネームで呼び合うところもいい。
収束に向けての展開がもの足りないが、ベテラン女優たちのプロ根性で見せる生命力と、時折のぞく彼女たちのかわいらしさに牽引されて、食い入るように見入ってしまった。これが男だったら、おそらく自立できずにあきらめてしまうことだろう。女たちの勇気と逞しさに拍手!
<合木こずえ(Koz) >