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ダニー・ボイル監督最新作「127時間」を完成披露試写会で観る。
趣味のロッククライミングに出かけた青年が、落石とともに岩場に落ち、その石と岩壁の間に右手を挟まれ身動きができなくなる。万能ナイフで石を削るが、そんなものは子どもだまし。うっかりナイフを落とし、裸足になって小枝を挟み拾い上げ、再び削り始めるが埒もない。
24時間が経ち、正気を保つためにビデオを回す。叫んでもわめいても、声はむなしく岩場に吸収され孤独が募り、苛立ちがビークに達するが、ビデオに話しかけることで冷静を取り戻す。
こうして孤独と闘いながら、すべては自分が招いた運命、誰にも心を開かず、何でも自分ひとりで出来ると自負して母からの電話にも出ず、行く先も告げずにここまで来た、そんな自分をこの石が待っていたのだと、彼は真摯に過去の、愚かな自分に向き合う。
これは、事実に基づく物語だ。
アルピニスト、アーロン・ラルストンが体験した過酷な127時間の孤独をほとんど脚色することなく、見事なドラマに作り上げた。
「スラムドッグ$ミリオネア」のカメラマン、アンソニー・ドッド・マントルと「28週後...」のエンリケ・シャディアックという二人のカメラマンに依頼し、方や南米風、方や北欧風の撮り方で、たったひとりの闘いぶりを、まったく飽きさせることなく映し出している。
人間は予想以上に強靭な生き物だ。それはアルピニストの主人公のみならず、家族とともに生き、恋の経験もし、自分に笑顔を向けてくれる人々を知る者は、必ず生きる意欲を燃やすのだとこの映画は教えてくれた。
演じているのはジェームズ・フランコ。今回のアカデミー賞の主演男優賞にノミネートされているが、これがまた素晴らしい表情で観客を釘付けにする。
絶望の淵で、決してあきらめず、次々に生き延びる術を考え出し、脳裏に浮かぶ家族や昔の恋人に話しかけ、最後には幻影まで見ながら、脱出への希望を抱き続ける。その勇気と根性にわれわれは惹き込まれつつ手に汗握り、クライマックスで心臓が踊るほど興奮する。
127時間の彼の行動の中に、人間の、究極の底力を垣間見た。
(Koz)