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予定調和的なハリウッドの娯楽作にジャッキー・チェンがピタリとはまって、気持ちがいい。上映時間は長すぎるが、端正な出来(69点)
ジグソーパズルの最後の1ピースがピタリとはまるのは、気持ちのいいものだ。例え完成した絵が凡庸だとしても。
本作には、そんな快感がある。基本的に子供向けの映画だし、すべてが予定調和的。大きな驚きもなければ、深い感動もない。それでも、ハリウッドの娯楽映画として、上映時間が長すぎることを除けば、端正な出来だと思う。そして、ジャッキー・チェンを見続けてきた者にとっては、よくまとまったハリウッドの娯楽映画の中に、ジャッキーという、実にはまりにくいピースが、何の違和感もなくピタリとはまっていることに、大きな驚きとともに深い感動を覚えるのである。
ジョン・G・アビルドセン監督、ラルフ・マッチオ主演の「ベスト・キッド」(1984)のリメークである。オリジナルは大ヒットし、シリーズ化された。アビルドセンはシルベスター・スタローンの出世作「ロッキー」(1976)の監督であり、「ベスト・キッド」も若者が努力によって人生を変える物語としてよくまとまってはいるが、安易な物語展開に加え、マッチオの空手がまるでヘナチョコで、アクション演出がなっていなかった。
リメーク版の主演はウィル・スミスの長男、ジェイデン・スミス。一部でスミスの親バカ映画と悪口を言われているように、ジェイデンのために作られた作品である。オリジナルと違って舞台は中国で、母と一緒に異国に越してきた少年が、中国人たちのいじめに遭いながら、ジャッキー演じるアパートの管理人にクンフーを習い、大会でいじめの相手と戦う物語になっている。平行して、バイオリンを弾く少女との恋愛も描かれる。クンフーを習うことで、少年は中国文化を理解し、異境での暮らしの困難さを克服していくのである。
オリジナルに比べ、優れている部分はいくつもある。一種の観光映画になっていて、万里の長城や紫禁城など中国の名所がたくさん出てきて、ダイナミックな見所になっている。少年に空手を教えたミヤギ役のノリユキ・パット・モリタに比べ、今回、クンフーを教えるのはジャッキーだから、抜群に動ける。いじめを止めるために中国人少年たちと戦う場面は、相手の力を利用し、なるべく自分が傷つけないよう、同士討ちを誘いながら相手を倒していく。ジャッキーの名人芸が楽しめる。
そして、ジェイデンが意外に動けるのだ。もちろんワイヤーを使ったり、ダブルを使ったりはしているのだろうが、体のキレはヘナチョコだったマッチオと比べものにならないくらいいい。ラストの大会でのファイト・シーンなど、子供同士とは思えない迫力があった。
一方で、ジェイデンはどうしても生意気なセレブの息子に見えてしまう。劇中の主人公も生意気キャラなので、どうしても(我々が想像する)「スミスの息子」とダブってしまう。ジャッキーと、主人公の恋人役の少女を除いて、基本的に中国人が悪役としてしか登場しないのも気になる。主人公にとって中国は異境だから仕方ないのだが。
むしろ、ジェイデンより輝いているのはジャッキーだ。「ダブル・ミッション」(2010)のレビューでも書いたが、これまでジャッキーは、ハリウッド映画に何作も出演しながら、ある意味、常に浮いていた。ジャッキーが凄すぎて、他が付いていけないのだ。すべてが「ジャッキー映画」か「ジャッキーだけが浮いている映画」になってしまっていた。
ハリウッドに進出して30年、「ダブル・ミッション」ではジャッキーが浮いていないことに驚いたが、あれは「ジャッキー映画」だ。ところが本作は、「ジャッキー映画」でもなく、「ジャッキーだけが浮いている映画」でもいない。ジグソーパズルのピースとして、ジャッキーが初めて、ハリウッド映画にピタッとはまった瞬間に、心を打たれた。
ジャッキーは、東洋人が若く見えるから、といって、いつも若作りで実年齢とはかけ離れた役を与えられていた。「シャンハイ・ヌーン」(2000)のシャンハイ・キッドに代表されるように、「キッド(小僧)」を演じていたのである。さらに、刑事やスパイなど、一般の人にとってあまりリアリティーを感じさせないヒーロー役が多かった。本作では、クンフーの達人ではあるが、一人暮らしの初老の管理人を演じ、見事にはまっている。ファンならきっと、少年の成長物語よりも、初老の男が人生を取り戻す話の方に、感動することだろう。