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人間の心に潜む異常なまでの邪悪さを描くサスペンス・スリラー。連続殺人の残虐な描写の果てに、衝撃のラストが待っている(68点)
この作品が長編デビューとなるロイ・チョウ監督は、アン・リーの助監督をやった人で、Jホラーの直接的な影響はさほど受けていないという。だが、冒頭から途中までの展開は黒沢清の「叫」(2006)によく似ている。そして後半のどんでん返しは、書くとネタバレになるのでタイトルを書けないが、「ある映画」と全く同じネタだ。「パクリ」なのかと思ったら、監督がこの話の元になる新聞記事を読んだのは2004年という。偶然、同じネタとなったようだ。作品としては「ある映画」の方がよく出来ているが、こちらもなかなか面白い。もし「ある映画」を見ていなかったら、かなり衝撃的なラストだと思う。
冒頭、刑事がマンションのベランダから落ちる場面がショッキングだ。いったん立ち上がろうとして足が砕け、倒れる。とても痛そう見える。この刑事を演じているのが、何とあのチェン・クアンタイ。日本では「嵐を呼ぶドラゴン」(1973)くらいしか代表作が公開されていないが、ショウ・ブラザースを代表する武打星(クンフー・スター)の一人だ。落ちてからは病院のベッドで寝たきりなので、ほとんど見せ場はないが、懐かしい顔に会えたのは嬉しかった。
主演のアーロン・クォックは元アイドルだが、物語が進むにつれ、次第に精神が崩壊し、悪の顔を見せていくのがとても巧い。体にドリルで穴を開けて血を抜くという連続殺人も凄いが、両目に釘を打たれた女が這い回る場面など、残酷描写はかなりのものだ。しかし、それは決してストーリーから浮いていない。本作のテーマは、人間の心に潜む異常なまでの邪悪さだ。描写の過剰な残酷さは、絶対に必要なのである。ラストまで緊張感が失われないのも、この残酷さがあってこそだろう。