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ジョニー・トー監督独特の、芸術的なまでの銃撃戦を堪能できるフィルム・ノワール(83点)
ジョニー・トーが「ヴェンジェンス 報仇(原題)」を撮ると聞いて、ショウウ・ブラザースのチャン・チェ監督作のリメークかと思ったが、全く違っていた。主演はフランス人のジョニー・アリディ。香港とフランスの合作で、最初はアラン・ドロン主演のフィルム・ノワールとして準備されていたという。ドロンが脚本を気に入らず、出演を取りやめたらしい。それはそうだろう。ストーリーはよく出来ているとは言えない。脚本を読んだだけでは、本作の魅力は伝わらないだろう。なにせ、「間合い」の映画なのである。男同士が敵になるのか、味方になるのか。撃ちあうのか、撃ちあわないのか。どのタイミングで銃撃戦が始まるのか。全ては相手と向き合い、「間合い」を計ることで決まる。映画はその「間合い」をじっくりと見せる。男たちが黙って顔を見つめ合う緊張感。それが一気に凄まじい銃撃戦へと転じる瞬間のエクスタシー。脚本では絶対に分からないトー作品の醍醐味だ。
マカオにいる娘とその夫、孫たちを惨殺されたフランス人のレストラン経営者コステロ(ジョニー・アリディ)。復讐のため、クワイ(アンソニー・ウォン)、チュウ(ラム・ガートン)、フェイロク(ラム・シュ)の3人の殺し屋を雇う。だが、コステロの脳には昔受けた銃弾が残っていて、いつ記憶が失われるか分からなかった。やがて、コステロの復讐の相手が、クワイたち3人の組織のボス・ファン(サイモン・ヤム)であることが分かる。
クワイたち3人はボスのヤムに依頼され、ホテルで男を殺害する。偶然、コステロはその現場を見てしまう。3人とコステロが、じっと顔を見つめあう。黙って去るコステロ。3人も、跡を追わない。コステロと3人との出会いの場面である。すでにこの時、両者はお互いの中に認め合うものを感じていたのだろう。顔を見るだけで分かってしまうのが、トーの世界だ。役者の顔がそれだけの説得力を持っている。アリディの青く光る、底なしの悲しみをたたえたような眼。アンソニー・ウォンの、叩いて叩いて、鍛え上げられたような表情。両者のにらみ合いには、「無言の会話」がくっきりと描かれている。