新着映画情報
お笑いプロパガンダ(80点)
『グリーン・ゾーン』を見ると、この映画を作った製作者らスタッフが、現代アメリカの本流というべき立場にいることがよくわかる。アメリカウォッチャーは、今後はこの人たちの作る映画から絶対に目を離すべきではないだろう。
フセイン失脚直後のイラク、バグダッド。米陸軍のミラー准尉(マット・デイモン)のチームは、大量破壊兵器を探す任務についている。ところが情報は常に誤りで、一向に見つかる気配はない。犠牲ばかりが増え続ける現状に納得できないミラーは、ようやくつかんだ重要情報を国防総省のクラーク(グレッグ・キニア)が握りつぶしたのをみて、何かがおかしいと感じ始める。
私はこの映画を見て、内心笑いが止まらなかった。イラク戦争の大義だった「大量破壊兵器」が実在せず、プロパガンダだったことは今では常識。ところがこの映画ときたら、この世紀の大嘘は一人の悪い小役人のせいで、国民もいたいけな米軍兵たちも、それにだまされた被害者だというのだ。
まさに厚顔ここにきわまれり。タブーを暴いたふりをして責任を矮小化し、自分たちの大多数を正当化する。本年度ダントツトップの、トンデモプロパガンダムービーである。
「ブッシュ政権のころにやってればもっとよかったのに」などという人がいるがとんでもない。政権交代したあとに公開するからプロパガンダの意味があるのだ。悪いことは前政権のせい。政権交代してみそぎを済ませたので、今の米軍はきれいな米軍ですよ──と、こういうわけだ。まさにアメリカ版・易姓革命。米中の仲がいいわけである。
アカデミー賞を取った「ハート・ロッカー」もこの『グリーン・ゾーン』も、言っていることは同じ。前の政権は悪いやつで、それに操られてひどいことをやったけど、米軍ひとりひとりは心の通った私たちと同じ市民であり、命がけで正義にまい進する立派な集団ですよということ。