新着映画情報
感情を揺さぶる力は『火垂るの墓』より上(80点)
『クロッシング』はあまりに危険な内容および主張を含むことから、南北融和のノ・ムヒョン政権時代の韓国ではおおっぴらに製作ができなかった。そこでやむなく、監督らは内容を絶対極秘にして各国ロケを行い、なんとか完成にこぎつけた。そして政権交代した今、ようやく日の目を見たという執念の一本である。
そして大事なことに、この映画には韓国人と同じかそれ以上に、日本人である私たちにとって重大な事実が含まれている。
かつて北朝鮮のサッカーナショナルチームの一員だったヨンス(チャ・インピョ)は、今はしがない炭鉱夫として、病弱の妻ヨンハ(ソ・ヨンファ)、11歳の息子ジュニ(シン・ミョンチョル)と3人で暮らしている。だが栄養不足など劣悪な環境下で妻の病状が悪化、特効薬を得るためには国境を越え、中国に行くしかない状況に追い込まれる。
まず最初にはっきりと申し上げておく。次のような方が、どうしてもこの映画を見たい場合は、感受性をぶち壊されるかもしれないので相当な覚悟を持って映画館にお出かけいただきたい。1.幼い息子がいる人、2.身近に拉致被害者・特定失踪者の家族などがいる方、3.怒ったら手がつけられない方、4.「拉致問題の前に国交正常化すべし」と考えている方。
『クロッシング』は、多数の脱北者に長年取材を行って、彼らの実体験をもとにディテールを構成したドラマである。モデルとなった家族も、脱北事件も実際に存在していることを、まず知っておいていただきたい。
この映画の北朝鮮に対する政治的立ち位置は、比較的はっきりとしている。というより、脱北者たちから話を聞いて映画を作るとしたら、どこかの靖国監督でもない限り、こういう作品になる事は必然である。言い方を変えればある種のプロパガンダといえなくもないが、その完成度は高い。
それでも本作は、見終わったら誰もがピョンヤン上空にF-22の一機も飛ばしたくなるように作られている。つまり先ほど3番にあげたような方は、本気でコトを起こしてしまいかねないので、特に注意していただきたい。
映画は、北朝鮮のある善良な一家におきた悲劇を描いている。病気の妻のため、命がけで脱北を試みる父、その帰りをひたすら待ち、幼いながらも病気の母と家を守ろうとする息子。その大きな試練にとって、彼らはあまりにも無力すぎる。だがそれでも男たちは諦めず、自分ではなく家族のため、自らにできるすべての事をする。