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2009年12月11日 配信
ジョルジュ・シムノンの原作をハンガリーの鬼才タル・ベーラが映画化。通常のドラマを否定したキャメラによる「観察」で、人生の現実に迫る傑作(92点)
冒頭、キャメラは窓越しに巨大な客船を捉える。非常にゆっくりとしたパーン。船上でのやりとり、そして、船を下りて列車に乗る人々を、キャメラが移動しながら、どこまでも窓越しに追う。窓枠をまたぎながら、いつまでもカットは変わらない。その異様な緊張感は、本作が普通の映画ではないことを物語る。長いワンカットは、観客にドラマを見ているのではなく、もっとリアルな「何か」を観察しているような気にさせる。
舞台は北フランスの霧深い港町。制御室から港と駅を監視している鉄道員のマロワン(ミロスラヴ・クロボット)は、ある日、殺人を目撃する。殺された男が海に落としたトランクを拾い上げると、大金が入っていた。金を追って、ロンドンから刑事がやって来る。マロワンの平凡だった人生が、狂っていく。
キャメラは画面が真っ暗になっても、いつまでもその闇を映し続ける。まるで、見えない何ものかが映り込むことを期待しているかのようだ。泣いている女優の顔を撮って、普通ならカットが変わるタイミングになっても、カットは変わらない。キャメラはいつまでも女優の顔から離れない。「演技する女優」の顔は、その向こうにある女優自身、さらに、人間自身に見えてくる。