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むらきむら さんプロフィール
映画が好き、映画より本が好き、本より音楽が好き。

高校、大学時代に大好きだったルースターズのボックス・セットに驚いている今日この頃。こんなの買えません。でも欲しいです(全部アナログの世代ですから)。



■過去記事一覧


写真01
『あの胸にもういちど』
DVDジャケット

写真02
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『あの胸にもういちど』
CDジャケット


 マリアンヌ・フェイスフルという名前、人物には特別な思い入れがある。ロックが好きで、ローリング・ストーンズに入れ込んだことがある人なら、そういう思いを共有できるはずだ。今までに2回(記憶違いなら申し訳ない)来日しているはずだが、お金に余裕がなかったから観に行くことが出来なかった、いや、その頃はそこまで切実に観たいとは思わなかったのかもしれない。きっとそうなんだろう。

  ローリング・ストーンズのマネージャーであった人物に見出され、ジャガー/リチャーズのペンによる「アズ・ティアーズ・ゴー・バイ」でデビューした彼女はイギリスのアイドル・シンガーとして大きな人気を獲得していく。そんな彼女の人生が変わり始めたのもストーンズからだった。アイドルながらもすぐに結婚し、子供もいた彼女の生活はミック・ジャガーと公認の関係になることで変わり始める。結婚生活は破綻し、その頃のストーンズと共にドラッグにのめりこみ、ミックの子供も流産してしまう。結局、彼女はミックとも別れ、廃人同然の状態になる。天使の声と呼ばれた美声も失い、自殺未遂を起こし、ドラッグ中毒から回復するために自宅と療養所を行き来するような日々を送る。それが彼女の60年代から70年代にかけての生活だった。そして80年代を目前に彼女はミュージシャンとしてカムバックする。その復活を世間は奇跡と呼び、彼女の完全に変わってしまったざらついた声と言葉から人生の深み、重みを感じ取った。今でも年に何回か彼女のCDを取り出し、慰みのように聴く。好きなアルバムは『ブレイジング・アウェイ』というロック史上に残るべきライブアルバムと近年のクルト・ワイルを歌ったアルバムだ。クルト・ワイルがここまではまり込む声はほかにないのではないだろうか。

  『あの胸にもういちど』は1968年に公開された作品である。この時期の彼女はサントラが名高いアンナ・カリーナ主演の『アンナ』など何本かの映画に出演している。音楽活動より役者に入れ込んだ時期で、ミック・ジャガーともまだ蜜月の時代だ。ただ、その蜜月はドラッグまみれだったのだが。そんな彼女は60年代の終わりには「私はどうしたらいいんだろうか」と街中で呆然とするようになってしまったと書いている。その時に相談に行った友人は彼女に「自分の人生のレコードを作りなさい」とアドバイスしたという。そのことを当時の彼女は「おかしいんじゃない」と感じたというが、80年代以降の彼女の歌はそのアドバイスの通りになっている。そして、90年代以降は再び、役者としての仕事も開始している。多大な時間はかかったが、彼女は自分の足元を確保したのだろう。

  『あの胸にもういちど』に戻ろう。この作品を僕はこの機会まで観たことがなかった。貸して頂いたDVDをたまたま同居人と観ていると、彼女が「これって○×じゃない」と語りかけてきた。この手の作品は僕しか観ないから、僕が以前にどっかで借りてきたことがあると思っていたらしい。でも、ラストのシーンで、友人に借りたことを思い出したらしく、「あのラスト・シーンが印象的だから観て」と渡されたという。タイトルは「オートバイ」だったというが、この辺は曖昧だ。

  『あの胸にもういちど』の原作はアンドレ・ピエール・ド・マンディアルグというフランスの幻想文学作家によるものだ。日本では「オートバイ」というタイトルでサリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」と同じ白水社の新書版の翻訳ものシリーズ(他にジェームス・ボールドウィンやシェイクスピアなども)として出版されている。文学や翻訳小説に興味があるなら、一度は手に取ったことのシリーズだろう。物語は平凡で退屈な結婚生活を送る女性が国境を越え、ドイツに暮らす、本当に愛したひとりの男性のもとにバイクで走っていく道程を描いたバイク・ロード・ムービーというべき作品だ。フルスロットルで走り続ける中で、彼女の頭に浮かんでくるのは彼との出会いなどの回想シーン、心の声である。彼女が本当に恋した男は退屈なんて縁もないクールで奔放な男性である。小説が発表されたのは1963年、映画化は1968年、“自由”という言葉と行動に最も重きが置かれていた時代であり、そういった感覚が作品には反映されている。撮影中のマリアンヌ・フェイスフルはハシシでラリまくっていたという話もあるし、実際に彼女はドラッグの淵へと落ちていた時期でもある。でも、それも“自由”というものだったのだ。映画は公開当時、散々な評価を受けている。いちどハリウッド進出に失敗している人気絶頂のアラン・ドロンを再び英語圏に売り出すための作品とも言われていたらしいが、結局、そういった効果も生み出さなかった。

  ただ、この公開時の散々な評価が現在での評価に当てはまるわけではない。オープニングの移動する路上に映し出されるタイトル、キャストなどのクレジット、時代を感じさせるサイケデリックな映像の挿入、ハモンド・オルガンを多用したスインギンなレス・リードのペンによる曲の数々などは今の時代だからこそのクールさを感じることが出来る。そして、ちょっとイメージの違う(夜這いまがいのことまでしてしまう)アラン・ドロンもいいがが、なんといったってマリアンヌ・フェイスフルがこの作品の最大の見ものである。元々はアラン・ドロンの起用を決め、他の女優をセレクトしていたが、彼女はドロンが出演しないとしたため、変更。ドロンはマリアンヌ・フェイスフルで了承、結果的にはこれ以上ない素晴らしいセレクトとなった。その素晴らしさを証明するエピソードが、あの「ルパン三世」の峰不二子のモデルはこの作品の彼女だという話である。明け方、隣で眠る夫を残し、素肌に皮のバイクスーツを着込み出かける場面、過去のことを思い出しながら狂ったように笑うシーン、泣くシーン、全てがいい。そして、その姿が美しい。バイクは大型のハーレー。それが自然とはまっている(実際の走行シーンは吹き替えですが)。

  自分らしい“自由”を求めながら、それに手が届く範囲にいながら、最後に待ち受ける結末は必然だろう。その“自由”を本当に彼女が手に入れられたかは分からないし、実際にそんな自由があったのかも分からない。ここにも時代というものを多少ながら感じてしまう。

  サウンドトラックは「Girl on a Motorcycle」という英語タイトルでCD化されている。グルービーでちょっとセンチなテーマ曲、映画からのモノローグに加え、後にクレオ・レインなどにより歌詞をつけて発売されたこのサントラからの曲(3曲)もボーナストラックとして収録されているし、小さいながらもオリジナル・ポスターもついている(CDジャケットを広げる形)。音楽を担当したのはレス・リード(RES LEED)。トム・ジョーンズ、ペトゥラ・クラーク、ビンク・グロスビー、カーペンターズなどに曲を提供すると共に、数々の映画音楽も手掛けている。映画が気に入ったら、このサントラも手にとって欲しい(発売されるデラックス・エディションの特典CDが同じ内容かは分からない)。

  『あの胸にもういちど』のDVDは絶賛発売中(発売元/デックスエンタテインメント、キングレコード 販売/キングレコード)!初回限定発売の『あの胸にもういちど<マリアンヌ・フェイスフル デラックス・エディション>』には先にも書いた素晴らしいオリジナルサウンドトラックCD、オリジナルTシャツ(Mサイズ)なども入っています。詳しくはオフィシャルHPで。
http://www.dex-et.jp/

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