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■電気羊プロフィール
アニメーター、編集者を経て現在はフリーライター兼翻訳者のハシクレをしている。好きな映画は「ブレードランナー」、好きな役者はコリン・ファースと嵐寛寿郎。だんなについて、目下カリフォルニア州サンタクルーズに滞在中。せっかくなんで、コミュニティ・カレッジに通いつつ、映画三昧している。この度3年越しの夢が叶い、コリン・ファース主演作「フィーバー・ピッチ」で字幕翻訳家デビュー! 趣味はスキューバダイビングとビリヤード(どっちも超ヘタ)。日本から連れてきた耳垂れウサギを飼っている。


■過去記事一覧



写真01
『イーオン・フレックス』
ポスター

写真02
『ナルニア国物語
第1章:ライオンと魔女』
ポスター

写真03
『キング・コング』ポスター

写真04
『ブロークバック・マウンテン』ポスター

カリフォルニアはサンタクルーズから、毎月最新ホヤホヤの映画情報をお届けする「もぎたて映画通信」。第19回は、アカデミー賞狙いの名作、大作がどとーのように押し寄せるこの時期から、選びに選び抜いた(ウソ)つぶぞろいの傑作たちをご紹介!

☆「プライドと偏見」

『ブリジット・ジョーンズの日記』の元ネタとしても有名な、ジェーン・オースティンの「高慢と偏見」の映画化です。うんと昔にローレンス・オリヴィエ主演で映画化した白黒作品や、10年ぐらい前にBBCテレビがコリン・ファース主演で作ったミニ・シリーズなどの正統的なものから、ボリウッド版"Bride & Predudice"など、何度もいろんな形で映画化されてきた古典、今回はどう料理されているのでしょうか。

事前に、独立系映画のフリーペーパーに寄せた監督の「これは20才の娘と28才の若造(kids)の一目惚れの話で、30過ぎの男女が声のさや当てをする話じゃない」というコラムを読んでいたので、「なるほど、それでキーラ・ナイトレイなんだな」と納得して、フレッシュさだけが売りなのだろう、とそれこそ偏見の塊で見にいったら、眼からウロコが落ちました。コリ様(コリン・ファースのこと(^_^;))命の私には認めるのは悔しいけれど、素晴らしかったです。オースティンブームのきっかけを作ったミニ・シリーズを、否、ある意味原作さえ越えた部分さえあります(ただ、ペンパリー館の場面だけは、若さ[監督も33才ぐらい]が暴走してましたが(^_^;))。

TV版や原作で、いつも少しひっかかるものを感じていたリジーの父親(ドナルド・サザーランド)と三女像が、今回何気なく共感できるものに描かれていて、それが作品全体の好感度をとてもアップさせました、自分的に。こうでなくちゃ、って感じ。具体的には、舞踏会での三女のピアノシーンと、最後の父親の書斎でのリジーとの会話部分です。お母さんも、無邪気さと愚かさは紙一重というか、この人の場合同じもの、というのが良く出ていて、憎めないです。お母さんの脚をぶらぶらさせる癖と、リジーのブランコは、確かに母子という感じ。登場人物の誰一人として、彼らの性格や行いを作り手が裁いていない、観ていて気持ちのいい映画、これだけはいえると思います。あと、TV版との大きな違いは、人の数の多さかな。通りを往来する人々や、舞踏会のゲストたち、かなり人口密度高いです。実際にはどちらの方に近かったのでしょう? 同じ話なのに、ファッションも映画によって違うのが、おもしろいですよね。

全体的な演出も素晴らしいです。雨や風景の使い方がうまいこともあり(少しベタだけど)、1時間半なのに、ちっとも詰めこんだ感じがせず、しっかりと時の経過を伝えています。舞踏会で、登場人物たちをしりとりのように追う長回しのシーンも軽やかで楽しいです(題名忘れちゃったけど、去年か今年あたりに全編1カットで舞踏会を撮りあげたロシア映画がありましたね)。そして、肝心のリジーとダーシーの恋愛感情も、きちんと、監督の言葉通り、とても初々しく描いています。若いっていいわねぇ、って、観客は総おばさんになってしまうことでしょう。

時には、恋を成就させることが、世界を救うよりも難しく、価値がある。そんな気分にさせてしまう、奇跡のような"Chick Flick"でした。

☆『イーオン・フレックス』"Aeon Flex"

これは、予告編を観てすごく期待していた映画です。原作は、やっぱりもう10年ぐらい前になるでしょうか、MTVで深夜に放映されていた、すんごいビザールなアニメです。当時、こんなのをアメリカで作れるんじゃ、ジャパニメーションなんて用済みじゃん、ってショックを受けた覚えがあります。その後、この作品のクリエイター、ピーター・チョンに、WOWOWが「アレクサンダー戦記」というアニメを作らせていましたが、彼の持ち味が何も生きていない、凡庸な「ジャパニメーション」でした。

この実写版も、「アレクサンダー戦記」と同じ轍を踏んじゃってますね〜。監督は、『ガールファイト』のカレン・クサマ。主人公が戦う女だからってだけでやらせたのか? って勘ぐらせるくらい、メタメタでした。サイバーパンクがオールドウェイブになっちゃっています。予告編にあった、ワクワクするような斬新なアクションシーンは、前半15分くらいで影をひそめ、もうSFですらなくなって、普通の銃撃戦と肉弾戦に終始しちゃってます。冒頭のハエトリ睫毛で、力尽きちゃったんですかね。

批評もほとんど褒めていなくて、「キャットウーマン」と比較して、クサしています。『ユージュアル・サスペクツ』のコバヤシこと、ピート・ポスルスウェイトが、また変な役で出ていて、あるレビューで、彼の衣装のことを、「なぜピート・ポスルスウェイトはコンドームを着ているのか!?」って書いてました(^_^;)。いじりたくなってしまうキャラなんでしょうか、ポスルスウェイト。

いちばん嫌だったのは、変な東洋趣味かな。『イーオン・フレックス』の世界とまったく、全然、ひとつも、百億光年も、合わないのに。

☆『ナルニア国物語 第1章:ライオンと魔女』
"THE CHRONICLES OF NARNIA: THE LION, THE WITCH AND THE WARDROBE"

原作はC・S・ルイスの有名な童話です。映画化が決まった頃は、ちょうどメル・ギブの『パッション』が話題になっていて、その時にこの作品を引き合いに出して、ライオンのアスランはキリスト、と書いている記事を読んだので、原作を読んだことのない私は、抹香臭いのは嫌だな、と思ったのですが、その点は大丈夫でした。作り手たちも、別にそれを強調したかったわけではないのでしょう。

とても楽しめました。映像が素晴らしかったです。ただ、冒頭、変に写実的なのにチープなCGによるロンドン空襲シーンは、監督は必要だと思ったようですが、第一印象として、かなり物語の雰囲気を傷つけていると思います。子どもたちが、それぞれとてもいいです。特に、一番小さなルーシーが、顔をくしゃくしゃにして泣いちゃうところ、すごくかわいい。「となりのトトロ」を実写にする時はぜひ彼女をメイ役に(^_^)。それぞれ性格がかき分けられていて、ルーシー以外、性格が悪いのもいいです。お兄さん風を吹かせたがる兄、ネガティブ志向で兄を責めるばかりの長女(顔が好き)、ブラックシープの次男。この次男をやってる子は、メイキングを見たけれど非常に肝の据わった子どもでした。「僕の役はすぐ誘惑に屈しちゃうんだ。ぼくもそうなんだよねー」だって。

ルーシーがタンスを開けると一面銀世界で、電灯が一本だけ立っていて、そこでフォーンのミスター・タムナスに出会います。この場面はとてもファンタスティックで平和な雰囲気でいいんですけど、そこからどんどん、物語が殺伐として来ちゃうのが、ちょっと…。原作でもそうなんでしょうけど、でも本は、挿し絵がかわいらしく、たとえストーリーは同じでも、映画で受けるのとは違う印象なのだろうなぁ、と思いながら観ていました。ただ逃げ回るだけの現実世界よりは、辛くても自ら戦えるこちらの世界の方がいいのでしょうか。

フォーンやケンタウロスなど、半身半馬のクリーチャーがたくさん出てきます。その昔、ストップモーション・アニメの大家レイ・ハリーハウゼンは、モデルで作ったキャラクターを、着ぐるみを着た人間と間違われるのが嫌で、ことさらひづめのあるクリーチャーをデザインしたそうですが、今は軽々と、そのハードルをクリアしちゃうのですね。サイクロプスも出てくるけど、全然活躍しないで、オマージュというほどの愛は感じませんでした。ティルダ・スウィントンの雪の女王は、どんなクリーチャーよりキャラ立ってました。ちなみに、アスランのデザインは、声がリアム・ニーソンに決まる前から、「アラバマ物語」のアティカス・フィンチ(グレゴリー・ペック)をイメージしたそうです。それでアスラン好きなのかな。ビーバーは、ビーバーつーよりカピバラみたいでしたけど。

その後、テレビでC・S・ルイスの番組をやっていて知ったのですが、本当に第二次世界大戦時、教授だったルイスの家に、4人の子どもたちが疎開に来て、その子たちのために書いた物語なんですね。イギリスってそういうパターン多いな。くまプーとか、アリスとか。

原作、読んでみよう。

☆『キング・コング』King Kong

もうみなさんご覧になりましたか? すごかったですねー、スカル島での恐竜対コング、そしてNYでの暴れっぷり。エンパイア・ステート・ビルで、コングが視界から消えるところ、嗚咽がもれそうになってしまいました。CGIコングは、グゥの音もでないくらい、文句ないです。拳をうちつけて悔しがるクセは、「猿人ジョー・ヤング」入っていますね!

それでも、あれほど時間と金と才能をたっぷりと注いで作られた、これほど豪華で堂々たる素晴らしいエンタテインメントの力作なのに、70年も前に、たったひとりのアニメーターがコツコツ動かしたローテク・コングの魅力にかなわないなんて!(←個人的意見)本当に映画は不思議だ…。

オリジナルとの一番の違いは、ヒロインがコングと仲良くなっちゃうところですが、私は最後まで嫌がっているオリジナル版の方が、潔くて好きです(^_^;)。フィジカル・ギャグでコングがうちとけるなら、美女じゃなくて、チャップリンやキートンでも良かったのでは? なんて、ひねくれたことを考えてしまった。まあつっこみどころは、ありますよね、この映画。でも、ナオミ・ワッツは大変魅力的でした。あんな薄物一枚で、風邪を引かないで欲しいものです。ジャック・ブラックのカール・デナムは、ピーター・ジャクソン監督が、オリジナル版を監督したメリアン・C・クーパーと重ねる入れ子構造の脚本にしていて、面白かったです。船で撮影するシーン、それにコングをお披露目する時のダンスショーは、オリジナル版を公開した時にチャイニーズ・シアターでやったという前座ショーを再現したのでしょう。私が好きなのは、船出する時、脚本家に、「本当にお芝居を愛しているなら海に飛びこんでいたはずだね」ってしゃあしゃあとしていうところ(^_^)。

スリリングなアクション場面を観に、もう2,3回足を運びたいところですが、3時間もあるのがな〜(^_^;)。島に着くまでに本当に1時間も必要だったの!? (戻りは0秒だ、ちなみに)

☆『ブロークバック・マウンテン』Brokeback Mountain

公開するかしないうちから、ものすごい勢いで各賞を取りはじめている本作。去年の『サイドウェイズ』みたいな感じです。そこまで評価の高い理由が、私にはよく分からなかったのも同じかも(^_^;)。

お話は、1960年代の、ワイオンミングの山で、一夏羊飼いのアルバイトをするためにやって来たふたりのカウボーイ(ヒース・レジャーとジャック・ギレンホール)が、なりゆきで一緒に寝てしまうというもの。ところが、なりゆきかと思ったら、実は宿命の恋の様相を呈してきて(仕事が終わって、「じゃ!」って別れた後、ヒース・レジャー扮する、寡黙な方の男が、物陰に隠れて文字通り、いきなり内蔵が飛び出すんじゃないかってぐらい慟哭しだして、ビックリしました)、この禁じられた関係は、その後もずっと、何年も続いていきます。時代的にも場所柄的にもバレたら命はない、みたいな状況なので、ふたりとも別々の場所に住み、所帯も持って、最初は忘れようとするんですが、やっぱり離れられなくて、年に一度の逢瀬を重ねます。

監督は、アン・リー。『センス&センシビリティ』以来の傑作! と、絶賛されています。台湾出身の彼は、アメリカに若い時にやってきたので、アウトサイダーの気持ちがよく分かるのだそうです。評価が高いのは、多分、「男同士の」っていう枕詞を忘れさせるぐらい、ふたりの愛の貫き方が、美しいからでしょうか。4年ぶり(!)に再開した途端、もう理性も何もなくなって、ジャック(ギレンホール)に熱いキスをしてしまうエニス(レジャー)。こんなふたりなもんで、しゃれたセリフなんて一切出てこないところが、個人的には好きです。手に手を取って、サンフランシスコに行っちゃった、っていう風にはならず、ちゃんとその社会内に踏みとどまって、その社会の中で生きていこうとする姿が、ストイックで、そういう意味では、正統的なカウボーイ像のエニス。エニスさえ首をタテに振れば、手に手を取って行っちゃったっていいと思っている、ジャックも切ないです。ふたりが一緒になるのは、いつも文明から離れた美しい自然の山の中なので、この映画の中では、ふたりの世界が、どんどんノスタルジーになっていく西部の原風景と不可分に重なって(如実なのは、70年代に入り、車で去っていくエニスの姿に、出会った頃の、馬に乗って去っていく姿がダブる場面)、悪いことだ、背徳だって思うことの方が難しいのではないでしょうか(でも知人のデブラのような、「聖書が禁じてるから同性愛は間違い!」って信じこんでいるような人たちは、はなから観に行かないと思うけど)。

私が観ていて思い出したのは、ル・グインの「闇の左手」と、カレッジの英語クラスで読まされた、Larry Watsonの"Montana 1948"という小説。後者は、やはり西部劇さながらの、カウボーイたちの町で、保安官をしている主人公が、一見理想化された男たちの世界の裏に隠された、身内を巻き込むある醜い事実を知る、という内容です。ジョン・フォードやジョン・ウェインが、神話の域にまで高めてしまった西部劇の世界の、薄皮一枚下に隠されたもうひとつの姿。

冒頭に、いまいちピンとこないと書きましたが、これは観た後でジワジワボディーブローのように利いてくるタイプの映画らしく、いろんな場面が頭の中から出ていこうとしません。脚本を買ってしまったりなんかして(正直言うと、ヒース・レジャーのモゴモゴ台詞がよく聞き取れなかった)。原作は、『シッピング・ニュース』のアニー・プルー。原作に惚れたダイアナ・オサナが、脚本パートナーのラリー・マクマートリー(『ラスト・ショー』、『ロンサム・ダブ』)と一緒に書いた脚本は、誰もが素晴らしさを認めたものの、題材の危険性から8年間ぐらい業界をたらい回しにされていたらしいです。クレジットに流れる"He was a friend of mine"というウィリー・ネルソンが歌う歌が、歌詞の内容から、この映画のオリジナルかな、と思ったら、ボブ・ディランが昔に書いた曲みたいですね。

『プライドと偏見』のように、恋を成就させるのも難しいけれど、恋をまっとうするのも、難しい。『キング・コング』も含め、なんだか色々な形の愛の映画を、立て続けに観てしまいました(^_^;)。

関係ないですが、エニスの名字はDel Marなんですが、本作を観た劇場、Del Mar Theaterという名前でした(^_^)。

ぢゃ、また来月(あたり)。
(Dec. 25 2005)
電気羊

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