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■電気羊プロフィール
アニメーター、編集者を経て現在はフリーライター兼翻訳者のハシクレをしている。好きな映画は「ブレードランナー」、好きな役者はコリン・ファースと嵐寛寿郎。だんなについて、目下カリフォルニア州サンタクルーズに滞在中。せっかくなんで、コミュニティ・カレッジに通いつつ、映画三昧している。この度3年越しの夢が叶い、コリン・ファース主演作「フィーバー・ピッチ」で字幕翻訳家デビュー! 趣味はスキューバダイビングとビリヤード(どっちも超ヘタ)。日本から連れてきた耳垂れウサギを飼っている。


■過去記事一覧



カリフォルニアはサンタクルーズから、毎月最新ホヤホヤの映画情報をお届けする「もぎたて映画通信」。第17回は、ホラーかと思いきや良質なサスペンス映画と、動物と人間の「危険な関係」を描く世にも稀なドキュメンタリーをご紹介します。

☆Red Eye

 「エルム街」「スクリーム」シリーズなどのウェス・クレイヴン監督作だし、TVスポットもそういう作りだったので、ホラーだと思って見にいったら、ヒッチコック張りの純然たるサスペンスでした。そしてサスペンス映画として、すごく面白かったです。

 舞台は飛行機の中。ホテルの有能なデスク・マネージャー、リサ(「きみに読む物語」のレイチェル・マクアダムス)と相席になった男(「28日後...」のキリアン・マーフィ)。最初は感じの良かった彼が、飛行機が離陸して間もなく、本性を現し、リサを脅して、勤め先のホテルへ機内電話をかけさせ、従業員にある指示を出すように強制します。彼の仲間が地上でリサの父親を見張っていて、マーフィー(役名は最後までナシ)の合図で父親を殺すというのです。彼は何者なのか? 狙いは? リサはどうやって窮地を脱するのか?

「28日後...」で見せた健脚を、ここでも生かしているマーフィ(確か元アスリート)。「バッドマン」の悪役に続き、もぐもぐしゃべり、どこかむきだしなところがある彼は、ちょっと邪悪な役が似合っていて、おもしろい役者になりそうです(「真珠の耳飾りの少女」でコリン・ファースと共演しています!)。リサ役のレイチェル・マクアダムスも、コメディ映画"Wedding Crasher"がこの夏大ヒットし、コメディもシリアスもいける若手演技派として売り出し中です。

 密室であるフライト中の飛行機を舞台に、離陸前の待機時間(フライトが遅れた)、乗客、フライト・アテンダント、狭い通路、荷物棚、トイレ、機内サービス、機内電話、乱気流、消灯タイムと、あらゆる設定や小道具を駆使しまくった展開が秀逸です。飛行機サスペンスとしては、今週公開のジョディ・フォスターの映画も控えていて、こちらも楽しみです。"Red Eye”とは、安酒または夜間に国内を横断するフライトのことを指すらしいです。

「Red Eye」公式サイト(英語)

☆Grizzly Man

 これはまた、すごいというかすばらしいというか、なんといえばいいのかわからない、とても複雑な気持ちになるドキュメンタリーです。

 ティモシー・トレッドウェルという、熊を愛してやまない男の、13回の夏をアラスカの国立公園で過ごした記録映像をもとに組みたてられたドキュメンタリーです。一筋縄でいかないのは、トレッドウェルが2003年の夏、ガールフレンドとともに熊に食い殺されてしまったこと。彼が13年間撮りためた映像と、また生前のトレッドウェルを知る者たちにヴェルナー・ヘルツォーク監督(このへんがまたすごい意外)がインタビューしたものを編集して、この極めてユニークなドキュメンタリーが仕上がりました。

 ヘルツォークが語るには、映像作家としては素人なトレッドウェルが偶然捕らえた映像が、ときどきプロの映画人がどんなに望んでも、作為的には得られない、奇跡のように素晴らしい瞬間があり、それが多分彼がこのドキュメンタリーを作った大きな動機らしいです。本当に、トレッドウェルのテントに出没するキタキツネたちなど、むちゃくちゃかわいらしくて美しいのですが、トレッドウェルが、泣くんですよね、キタキツネをなでながら、「なんてかわいいんだ、愛してるよ」って。私もよく自分のウサギを見て、かわいらしさに涙がでてしまう(←はいはい、親バカです)のですが、なんかスクリーンに映っているトレッドウェルが他人に思えなくなりました。その後でキツネに帽子を巣穴に持ってかれちゃって、本気で怒っていたところなんか、特にそっくりだ(^_^;)。テントに熊のぬいぐるみ持ってきてるし。でも、ウサギやキツネならまだしも、相手が熊となると……。

 トレッドウェルは愛する熊を守るため、愛好家組織を作ったり、学校に出かけていって子どもたちに熊を理解してもらおうと講演をしたりしていて、一時は人気トーク番組にゲスト出演するなど、それなりにアメリカでは知られていたようです。ただ、彼の活動というか、熊への接し方が本当に熊のためになったかどうかは疑問で、とある人物の「トレッドウェルは野生の熊をテディベアみたいに扱っていた」という言葉が、端的に彼の基本姿勢を現しています。アラスカの博物館の所員で、インディアンの血を引く人物が、「私たちは昔から熊と人間の間に一線を引いて、決してそれを踏み越えはしなかった。トレッドウェルがやっていたのは、結局熊に百害あって一利なしだ。人間を怖がらなくなってしまうから」といっていました。存命中、彼の反対者が、脅迫まがいの手紙を出したりもしたようです。ある学者は、「トレッドウェルは熊になりたがっていた。彼は熊に対してスピリチュアルな、ほとんどエクスタシーにちかいものを感じていたようだ」といっています。熊を愛する分、人間嫌いなところがあって(逆か)、ビデオ映像の中でも「人間が大嫌い!」って何度か悪態ついてました。すんげー悪態ついた後、コロッと態度を変えて熊の説明をしだすのがおかしいです。小柄で声も態度も女性っぽいトレッドウェル(でもゲイではない。自分で「ゲイなら良かったのに。でも僕は女の子が好き」といってます)は、昔俳優志望で、TV番組「Cheers!」のバーテンダー役のオーディションを受け、ウディ・ハレルソンに負けちゃったのだそうです(どうもこれで人間社会が嫌になったらしい(^_^;))。そんなトレッドウェルは見栄っ張りなところもあって、自分で満足行くまで何十回でも同じテイクを撮ったり(彼はよく、うろついてる熊をバックに解説します。はっきりいって、立て板に水的おしゃべり)、彼女とキャンプに来ているのに、ひとりぼっちで孤独な男のポーズをとりたがったり、NY出身なのに怪しいオーストラリアなまりで話したりします。アル中でもあった彼を救ったのが、熊への愛なのだそうです。そう、映画が進むに連れて分かってくるのは、トレッドウェルがただの脳天気アメリカーンな動物愛好家ではなく、ヘルツォーク好みの妄執を抱えた人物だということ(自分でそれをよく分かってなかったふしあり)。

 実は、殺された時、トレッドウェルはカメラのスイッチを入れていて、レンズのキャップをとる暇はなかったけれど、音はしっかり録音されていました。熊に襲われたトレッドウェルを助けようと、彼女が無駄な努力をするのですが、トレッドウェルは熊に食われながら「逃げろ!」と叫びます。「彼女は、日頃から熊を怖がっていたのに、最後まで逃げないで、彼を見捨てなかった。彼女の叫び声が、やがてものすごい悲鳴に変わるんだ」と、テープを聴いた検視医が、無表情に語るフッテージもとても怖いです。テープはトレッドウェルの元カノが保管しており、聴かせてもらったヘルツォークがヘッドホンをはずして静かにいいます。「これは破棄してしまったほうがいい。あなたにとってこれはwhite elephant(無用の長物)だ」と。そんなわけで、私たちは彼らの断末魔は聴く機会がありません。

 熊じゃなくて、せめてパンダにしとけば、殺されずにすんだんですけどねぇ、トレッドミル。"Wild Parrots in Telegraph Hill"のインコ好きの男とは、実に対照的な、動物への接し方でした。死の少し前、まさに自分を殺す相手の年老いた熊を撮った映像が残っており、熊は鮭をさがして川に潜り、思わず「かわいい」と感じてしまう足の裏の肉球を川面に見せています。一線を越えた報いを受けたトレッドウェル。彼をよく知るグライダーの操縦士が、彼らの死体を発見し、助けを呼んで、救援隊が、犯人と覚しき熊を銃で撃ち殺すのですが、操縦士は「例え自分を殺した熊でも、トレッドウェルは熊を撃ち殺させたくなかったと思う」と、しょんぼりいっていました。できればもう一度、いや何度でも劇場で観たかった作品です。もし、日本で公開されたら、是非劇場で、他の人と一緒に観てください。電気羊からのお願いよ。

「Grizzly Man」公式サイト(英語)

あと、テリー・ギリアム待望の新作「ブラザーズ・グリム」"Brothers Grim"も観ました。すごく綺麗な映像で、モニカ・ベルッチも「マトリックス」よりも何倍もきれいで、賛否どちらかといわれたら賛なのですが、ギリアム監督が、ストーリーテリングを放棄しちゃったようなところが見受けられるのが気になりました。現実世界からおとぎ話世界へのトランジションが、うまいこといってないです。ギリアムは、もしかして甲冑フェチ? あと高いところにいるお姫様と、男勝りのヒロインが好き? きれいな女優を夢のようにきれいに撮れるのが、案外この人の一番の武器かも。今回のヒロインは、キーラ・ナイトレイとブルック・シールズを足して2で割ったような女優さんでした。

ぢゃ、また来月。
(Sep. 20, 2005)

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