1900年代から第二次大戦直後まで、世界的に活躍した中国人マジシャン&軽業師、ロング・タック・サムの足跡をたどるドキュメンタリーです。監督は、カナダのアニメーション作家アン・マリー・フレミングで、タック・サムは彼女の曾祖父に当たります。アメリカ、オーストリア、アルゼンチン、オーストラリア、ハワイ、そして上海など、興行各地で大評判を呼び、ローレル&ハーディ、オーソン・ウェルズ、ハリー・フーディーニなどとも親交のあったセレブが、どうして世間はおろか、直系の家族からさえ忘れられた存在になってしまったのか? 映画はその謎に迫ります。なにしろ昔のこととてタックのパフォーマンスを納めた映像など残っているはずもないのですが、フレミングは苦労して集めた写真素材をCG技術で動かし、写真の中のタックがこちらを向いたり手品をしたり、当時のインタビュー記事や関係者のインタビューから構築したタックの生い立ち(数バージョーンあり)をコミック仕立てにしたりと、アニメ作家としての腕をフルに生かした映像作りで観客を飽きさせません。
中国からやってきた軽業師のタックは、興行先のオーストリアでとある女性と恋に落ち、当時としては稀な国際結婚を挙げます。2人の娘を設けたタックは、家族と一緒に舞台に立つようになり、一座はどこでも大当たりを取ります。やがて戦争が始まると、彼らの興行にも支障を来し始めるのですが、さすが軽業師(!?)、危ういところで難を逃れつつ、世界を股にかけた興行を続けて行きます。一度、娘達は映画界に転身しようとしたこともあるのですが、当時のハリウッドではアジア人は悪役と相場が決まっていて(早川雪舟の「チート」とか)、才能に溢れ、容姿端麗で美しいイメージを売りにしていた2人の眼鏡にかなう役はなく、あきらめたといういきさつがあります。長男も生まれ、家族を何よりも愛しながら、オーストリア籍の妻のためになかなか安住の地を見いだせず、各地を転々としながら華やかなショービジネスに一生を捧げた男、ロング・タック・サム。
例えば「テレミン」のような、小説よりも奇なる劇的なエピソードが出てくるわけではないけれど、家族のルーツ探しと、歴史に埋もれた一人のユニークな人物史の発掘という、2種類の楽しみが詰まった、マジカルなドキュメンタリーに仕上がってました。会場にはフレミング監督もみえて、上映後は観客と活発な質疑応答をしてました。そんなところも映画祭の醍醐味ですね。(^_^)。
★"The Magical
Life of Long Tack Sam"のページ。本編の一部やタック・サムの写真が見れます。
☆"The Man Who Copied"
ポップなコメディタッチの、サスペンス映画です。ブラジル製というのが変わり種。
コピー屋さんに勤めるアンドレは、近所に住む少女シルビアに片思い中。シャイな彼は、彼女をなかなかデートに誘えません。きっかけを作るために38レアル必要になり、文無しの彼は悩んだ末、コピー機で50レアル紙幣をコピーします。試しにそのお手製偽札でくじを買ってみると、気づかれることなくくじとお釣りをもらえました。シルビアとも、偶然を装いつつ接近して、お友達になるのに成功します。やがて、実は変態おやじであることが判明した父親から彼女を助け、2人でリオに逃れるため大金が必要になったアンドレは、さらに大胆な計画に着手します…。
筋書きを読むと、結構ヘビーそうな感じですが、そんなことは全っ然まったくなく、カラッと明るいブラジルのイメージそのままに、陽気な気分で観れてしまいます。それなのに、個性的な脇役たち、意外なストーリー展開とどんでん返しが待っていて、サスペンス映画としても申し分なく、これは一級のエンターテイメントでした(^_^)。かわいいシルビアも良かったけど、やたら背の高いバイト仲間の女の子マリネスが、セクシーなイケイケ娘なのにまだバージンという設定で、「パンティは履かないから値段が判らないわ」とか、「父親が貧乏なのは不運だけど、貧乏な夫を選ぶのはバカよ」とか、いろいろ名セリフをはいて楽しませてくれます(^_^)。アンドレはちょっとヒッキー気味で、家でコミック・イラストばかりを描いているのですが、双眼鏡で窓から他人の生活を見るのが趣味という、「裏窓」くんで、シルビアを知ったのもそれがきっかけでした。
★CINEQUESTの"The
Man Who Copied"のページ。予告編に加え、なんと26分もメイキングが観れてしまいます!(ポルトガル語だけど)
その他、インターナショナルなラインナップを誇るCINEQUESTは、緒形拳の「鏡を拭く男」、アラーキーこと写真家の荒木経惟を追った日米合作ドキュメンタリーなども出品されてました。
CAP1: サンノゼ映画祭CINEQUESTのメイン会場となった、レパートリー劇場。ダウンタウンの真ん中にあります。(これは写真1の説明です)
CAP2: "The Magical Life of Long Tack Sam"のアン・マリー・フレミング監督。気軽に写真を撮らせてくれました。本編に出てきたお手製コミックももらっちゃった! 2週間後には、フィルムをひっさげてブエノレスアイレスへ行くのよ、と興奮してました。(これは写真2の説明です)