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■電気羊プロフィール
アニメーター、編集者を経て現在はフリーライター兼翻訳者のハシクレをしている。好きな映画は「ブレードランナー」、好きな役者はコリン・ファースと嵐寛寿郎。だんなについて、目下カリフォルニア州サンタクルーズに滞在中。せっかくなんで、コミュニティ・カレッジに通いつつ、映画三昧している。コリン・ファース主演作「フィーバー・ピッチ」で字幕翻訳家デビューを飾るのが夢。趣味はスキューバダイビングとビリヤード(どっちも超ヘタ)。日本から連れてきた耳垂れウサギを飼っている。

■過去記事一覧




































写真01
レパートリー劇場

写真02
アン・マリー・フレミング監督

 こんにちは、電気羊です。カリフォルニアはサンタクルーズから、毎月最新ホヤホヤの映画情報をお届けする「もぎたて映画通信」。栄えある第一回は、映画祭レポートから超話題作の紹介まで、盛りだくさんでいっちゃうよ!

 私の住む町サンタクルーズは、ロサンゼルスからは車で5時間ほど北、サンフランシスコのちょっと南の、いわゆる“セントラル・コースト”に位置し、サーフィンが盛んな小さな海辺の町です。サンタから山1つ越えたところに、シリコン・バレーとして知られるサンノゼの町があり、3月3日から14日にかけて"CINEQUEST"と銘打った映画祭が開催されました。日本ではそんな映画祭、誰も聞いたことないと思いますが、結構ゲストが豪華で、過去にはイアン・マッケラン、ケビン・スペイシー、ジャッキー・チェンなどが出席しました。14回目を迎える今回は、今やカリフォルニア州知事のアーノルド・シュワルツェネガーと、「ブレードランナー」「許されざる者」の脚本家、デビッド・ピープルズが招待されています。私は残念ながら都合でどちらの式典にも出席できませんでしたが、映画祭で見つけた面白い作品を2本紹介しましょう。

☆"The Magical Life of Long Tack Sam"

1900年代から第二次大戦直後まで、世界的に活躍した中国人マジシャン&軽業師、ロング・タック・サムの足跡をたどるドキュメンタリーです。監督は、カナダのアニメーション作家アン・マリー・フレミングで、タック・サムは彼女の曾祖父に当たります。アメリカ、オーストリア、アルゼンチン、オーストラリア、ハワイ、そして上海など、興行各地で大評判を呼び、ローレル&ハーディ、オーソン・ウェルズ、ハリー・フーディーニなどとも親交のあったセレブが、どうして世間はおろか、直系の家族からさえ忘れられた存在になってしまったのか? 映画はその謎に迫ります。なにしろ昔のこととてタックのパフォーマンスを納めた映像など残っているはずもないのですが、フレミングは苦労して集めた写真素材をCG技術で動かし、写真の中のタックがこちらを向いたり手品をしたり、当時のインタビュー記事や関係者のインタビューから構築したタックの生い立ち(数バージョーンあり)をコミック仕立てにしたりと、アニメ作家としての腕をフルに生かした映像作りで観客を飽きさせません。
中国からやってきた軽業師のタックは、興行先のオーストリアでとある女性と恋に落ち、当時としては稀な国際結婚を挙げます。2人の娘を設けたタックは、家族と一緒に舞台に立つようになり、一座はどこでも大当たりを取ります。やがて戦争が始まると、彼らの興行にも支障を来し始めるのですが、さすが軽業師(!?)、危ういところで難を逃れつつ、世界を股にかけた興行を続けて行きます。一度、娘達は映画界に転身しようとしたこともあるのですが、当時のハリウッドではアジア人は悪役と相場が決まっていて(早川雪舟の「チート」とか)、才能に溢れ、容姿端麗で美しいイメージを売りにしていた2人の眼鏡にかなう役はなく、あきらめたといういきさつがあります。長男も生まれ、家族を何よりも愛しながら、オーストリア籍の妻のためになかなか安住の地を見いだせず、各地を転々としながら華やかなショービジネスに一生を捧げた男、ロング・タック・サム。
 例えば「テレミン」のような、小説よりも奇なる劇的なエピソードが出てくるわけではないけれど、家族のルーツ探しと、歴史に埋もれた一人のユニークな人物史の発掘という、2種類の楽しみが詰まった、マジカルなドキュメンタリーに仕上がってました。会場にはフレミング監督もみえて、上映後は観客と活発な質疑応答をしてました。そんなところも映画祭の醍醐味ですね。(^_^)。
★"The Magical Life of Long Tack Sam"のページ。本編の一部やタック・サムの写真が見れます。

☆"The Man Who Copied"

 ポップなコメディタッチの、サスペンス映画です。ブラジル製というのが変わり種。
 コピー屋さんに勤めるアンドレは、近所に住む少女シルビアに片思い中。シャイな彼は、彼女をなかなかデートに誘えません。きっかけを作るために38レアル必要になり、文無しの彼は悩んだ末、コピー機で50レアル紙幣をコピーします。試しにそのお手製偽札でくじを買ってみると、気づかれることなくくじとお釣りをもらえました。シルビアとも、偶然を装いつつ接近して、お友達になるのに成功します。やがて、実は変態おやじであることが判明した父親から彼女を助け、2人でリオに逃れるため大金が必要になったアンドレは、さらに大胆な計画に着手します…。
 筋書きを読むと、結構ヘビーそうな感じですが、そんなことは全っ然まったくなく、カラッと明るいブラジルのイメージそのままに、陽気な気分で観れてしまいます。それなのに、個性的な脇役たち、意外なストーリー展開とどんでん返しが待っていて、サスペンス映画としても申し分なく、これは一級のエンターテイメントでした(^_^)。かわいいシルビアも良かったけど、やたら背の高いバイト仲間の女の子マリネスが、セクシーなイケイケ娘なのにまだバージンという設定で、「パンティは履かないから値段が判らないわ」とか、「父親が貧乏なのは不運だけど、貧乏な夫を選ぶのはバカよ」とか、いろいろ名セリフをはいて楽しませてくれます(^_^)。アンドレはちょっとヒッキー気味で、家でコミック・イラストばかりを描いているのですが、双眼鏡で窓から他人の生活を見るのが趣味という、「裏窓」くんで、シルビアを知ったのもそれがきっかけでした。
★CINEQUESTの"The Man Who Copied"のページ。予告編に加え、なんと26分もメイキングが観れてしまいます!(ポルトガル語だけど)

 その他、インターナショナルなラインナップを誇るCINEQUESTは、緒形拳の「鏡を拭く男」、アラーキーこと写真家の荒木経惟を追った日米合作ドキュメンタリーなども出品されてました。
CAP1: サンノゼ映画祭CINEQUESTのメイン会場となった、レパートリー劇場。ダウンタウンの真ん中にあります。(これは写真1の説明です)
CAP2: "The Magical Life of Long Tack Sam"のアン・マリー・フレミング監督。気軽に写真を撮らせてくれました。本編に出てきたお手製コミックももらっちゃった! 2週間後には、フィルムをひっさげてブエノレスアイレスへ行くのよ、と興奮してました。(これは写真2の説明です)

話題作の紹介!

☆「パッション」The passion of the Christ

 日本でどのくらい伝わってるがわかりませんが、メル・ギブソンが撮った「パッション」は、公開前後、アメリカで凄まじい反響を呼び、連日あらゆるメディアを賑わせていました。ちょっと前までは公開も覚束なかったのに、あれよあれよという間に「灰の水曜日」Ash Wednesday(2月25日)にメジャー系で一斉公開され、初日だけで2,600万ドル以上の興行収入を上げる大ヒット作に大化け。なぜこれほど論議の的になっているかというと、映画が反ユダヤ主義的Anti-Semitismだという風評が公開前から立ったためです。製作側は、必死に「これは反ユダヤじゃない」と訴えかけ、各地でキリスト教関係者向けに試写会を開いて、彼らから好意的な意見を引き出すのに成功しました。公開後は、関係者が心配していた暴力沙汰は起きていませんが、それもユダヤ教会に脅迫状めいた手紙が多数届いたり、デンバーでは「ユダヤ人がイエスを殺した」というサインを表示したペンテコステ派の教会が出たりしています。
 実際に映画を観てみると、メルギブたちのいうよに、ことさら反ユダヤという印象は受けません。ただ、反ユダヤ派の人々が見たら、いくらでも自分たちの都合に合わせて利用できると思うし、そういう可能性のある映画をあえて作るのには、あんまり賛成できません。
 それはともかく、映画はすんげいスプラッタです。というか、なんだかサドマゾ映画みたいでした。何しろ捕まってから十字架にかけられるまでの12時間、責め苦にあえぐイエスを描く、それだけの映画ですからね〜。もう殴るわ蹴るわ縛るわどつくわむち打ちわ十字架を運ばせるわ釘は打ち込むわ肩は脱臼するわカラスに目は突かれるわ、大変大変。特にローマ兵による鞭打ち刑と十字架刑の場面は、史実に忠実にということで、手順をことこまかに描写してくれます。ビジバシビシバシ、肉がさけてあばら骨が露出するほどムチ打ち、それでは足りぬとばかりにもっと凶悪なムチに持ちかえ、体を仰向けにして防御の弱い腹部をビシバシ(今、学校の宿題でネイティブ・アメリカンが入植者から受けた虐待の記録を読んでるのですが、カトリックの司祭によるムチ打ちの描写が、これとそっくりなのです。「江戸の仇を長崎で」ってやつですか?)「もうやめて!」って絶対心の中で叫んじゃうこと請け合い。兵士たちも止めればいいのに、人が苦しむ姿って、嗜虐趣味をあおるのか、イエスが苦しめば苦しむほど、ビシバシビシバシ。観てる間は、ホントに辛いんですが、見終わった後って、不思議と残酷場面は心に残ってなくて、血まみれイエスの間に挟まれる、弟子やマリア、市井のユダヤ市民やローマ総督たちの織りなす人間ドラマのシーンが、サブミリナル効果のように、ふとした拍子に心に浮かんできて、すごく嫌な映画だと思ってたはずなのに、意外でした。メルギブ、侮りがたし。
 プロモーションで、トークショウに出演したメルギブは、「観てないのに批判するのは間違ってる。これはtolerance(寛容、忍耐)に関する映画なんだ。暴力的だっていうけど、聖書ってもともとR指定描写だらけの、ホットな本なんだぜ。『キルビル』とかの方が、よっぽどバイオレンスじゃん」と言ってました。また、イエスを演じたジム・カビーセルは、静かな物腰なのに実はすごく面白い奴で、普段ハイパーアクティブ、ハイパーカジュアルなメルの物まねを交えつつ、イエス役のオファーを受けた様子を語ってくれました。オファーを受けた後、ジムはプールで一日2回、水の上を歩いて役作りに励んだそうです(^_^)。かなりきつい撮影だったらしく、ムチうちの場面では当たり所が悪くて息がきなくなったため、ムチはデジタル合成に切り替えたり、吹きさらしの丘の上で裸同然で十字架にかけられたまま、みんなに忘れて置いてけぼりにされて低体温症になっちゃったり、ウソのようなホントの話で撮影中に雷に打たれ、思わず天を仰いだジムは「今の演技、そんなにまずかったですか!?」と聞いてしまったとか。いえいえ、とっくに滅びた言語を操っての受難(パッション)演技、迫真でした。
「パッション」日本語公式ページ。5月公開予定。

☆「真珠の耳飾りの少女」Girls with a Pearl Earing

 私の一番好きな俳優、コリン・ファースの最新作です。「ブリジット・ジョーンズの日記」、「ラブ・アクチュアリー」など、このところコメディ・タッチの役が続いたコリン・ファースですが、本作ではオランダの画家フェルメールを、十八番の仏頂面の内省的な役作りで演じてます。
 フェルメールの有名な作品、「青いターバンの少女(真珠の耳飾りの少女)」誕生秘話を描いた同名フィクションが原作で、タイトル・ロールを演じるのは「ロスト・イン・トランスレーション」のスカーレット・ヨハンソン。とにかく、フェルメールの絵さながらに、光と影のトーンが絶妙な映像が素晴らしかったです。そんなフェルメール的絵画世界の中で静かに、密やかに展開する、画家とモデルのピンと張りつめたような微妙な関係が、えもいわれぬエロチシズムを生んでます。
 そのモデルとは、家庭の事情でフェルメール宅に奉公に来た小間使いの少女、グリート。グリートの中に、芸術を解する魂を見てとったフェルメールは、絵の具を買いに行かせたり、調合する仕事を与えます。フェルメール家は子だくさんの妻と、その母親が取り仕切っており、トム・ウィルキンソン扮するパトロンに頼る生活は決して裕福ではありません。レンブラント的美女の妻は、夫がグリートに(画家としてであっても)感心を寄せるのが気に入らず、グリートはフェルメールの導いてくれる芸術世界に魅せられつつ、女主人のご機嫌も損ねないよう気をつけなければいけません。とうとう、「君を描きたい」と申し出るフェルメール。グリート以外立ち入り禁止のアトリエで、2人の「秘め事」が始まるのでした−−。
 なんて、柄にないこと書くと疲れますが、ホントに一枚の絵をじっと見つめているような、充実した体験ができる映画です。といいつつ実は、撮影の美しさに注目する前に私が気がついたのは、「鼻息」だったりします(^_^)。ひとりキッチンで野菜を切り、色分けして(このへんが芸術家)皿に盛りつけるグリート。黙々と作業をするグリートから漏れる鼻息の音を、映画はしっかり捉えます。洗濯物をたたんだり、拭き掃除をしている時、ふと自分の鼻息の音に気がつくことってありませんか? それを効果音として使う映画って、初めてのような気がします。
 本作はアカデミー賞の撮影賞、美術賞、衣装デザイン賞にノミネートされましたが、スカーレット・ヨハンソンが選を漏れたのは、「ロスト・イン・トランスレーション」では助演女優賞、本作では主演女優賞にカテゴライズされたため、票が割れてしまったのです。でも、彼女のグリート役は、主演女優賞をもらった「モンスター」のシャーリーズ・セロンの「動」の演技にも引けをとらない「静」の演技を極めていました。アカデミー賞は逃しましたが、彼女が2003年度の「イット・ガール」であることには変わりありません。日本では、本作と「ロスト・イン・トランスレーション」が立て続けに公開されるので、是非2通りのスカーレットちゃんを見比べてみてくださいね。コリンも、コメディをいっぱいやった成果か、フェルメールの芸術的一途さだけではない、グリートを一方的に利用したり、入り婿としてうまく立ち回ったりする処世術も身につけた、懐の深い/謎めいた/セクシーなフェルメール像を確立してます(ひいきひいき)。穏やかな英国紳士タイプのコリン、日本ではまだあんまり知名度高くないかも知れないけど、アメリカでは「ブジジット・ジョーンズの日記」以来、ヒュー・グラントに次ぐセクシー英国俳優としての地位を固めつつあり、先日もNBCの人気長寿番組「サタデー・ナイト・ライブ」でホストを務めていました(^_^)。

「真珠の耳飾りの少女」日本語公式ページ。4月1日公開!

 今回は長くなっちゃったけど、楽しんでいただけたでしょうか?
感想よろしくね! ぢゃ、また来月。
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