マカロニ・コング大襲来!
ラウレンティスへの挑戦状!
史上最強のパロディ巨編
二階堂卓也(映画評論家)
 ディノ・デ・ラウレンティスというイタリアの出身の大プロデューサーがいる。最近レクター博士という怪キャラクターのおかげで世界的ヒットとなった「ハンニバル」の製作者だ。70年代に映画製作の本拠地をアメリカに移し、76年、この国の"古典”ともいえる「キング・コング」を莫大な製作費を注ぎ込んでリメイクしたのは周知の事実だが、コトもあろうに同じ頃、このラウレンティスのリメイク版に真っ向勝負を挑んだ(?)作品がイタリアで作られた。"キング”ならぬ「クイーン・コング」。――――すなわち本作品である。そしてタイトルからわかるよう、同じリメイクには違いないが、これが徹底したパロディ趣向に彩られているのだ。
 イタリア映画におけるパロディとはつまり、コピー、亜流、物真似、二番煎じ――――ま、パクリというやつだ。
要するに自国であれ他国であれ、世界的にヒットした映画、あるいは話題になっている企画を先取りして、類似した作品をアッという間に作ってしまうのである。「妖姫クレオパトラ」「地上最笑の作戦」「荒野の用心棒」「077シリーズ」「テンタクルズ」「デアボリカ」「カリギュラU」など、そうした一丁戴き映画は枚挙に暇がない("本家”に相当する作品は大体おわかりになるだろう)。これらはホンの一例で、未公開も含めればその数は膨大なものになる。何しろ我々がハリウッドの専売特許と信じて疑わない"ゾロ”やら"スーパーマン”やら"ターザン”まで平気で製作され、公開されているのだから。そうした図々しい体質は百も承知でいたのだが、この「クイーン・コング」の登場にはさすがに驚いた。
 イギリスのプロダクションが協力しているためかイギリスとの合作扱いになっているが、このワルノリぶりは厚顔無恥なイタリア映画の正に体質、"伝統”をまぎれもなく受け継いでいる。イタリアではジャンフランコ・パロリーニ監督が、フランク・クレイマーの別名で冷凍状態で発見された雪男が見世物にされ、やがて大暴れするという、
 それこそ「キングコング」のコピー版「雪男・イエティ」を作ったことがある。(テレビ放映)。これには製作を1年遅らせたり(77年)、ゴリラを雪男に変更したり、あからさまに真似をしてはという配慮というか遠慮が感じられたものだが、ドッコイ、この「クイーン・コング」はそんな遠慮もクソもない。オリジナル版からちゃっかり設定をいただき、無節操に、ストーリーの骨子を拝借し、あげくは傍若無人なまでに茶化している。おまけにリメイクならこっちが先だとばかり、ラウレンティス版と同じ76年に堂々(?)完成させているのである。
 大ヒット映画をもくろむ女流映画監督がロンドンで、これこそ未来のスーパースターと見込んだ若者に一服盛って、アフリカのウガンダに船で拉致してしまう。直ちに撮影に入ろうとするが、そこへ突如現れるのが伝説の巨大ゴリラ、クイーン・コングだ。若者はゴリラのいけにえに供されようとするのだが、いつしか"二人”の間には友情、じゃなかった、"愛情”が芽生えてしまう。
ガス爆弾で失神したコングはロンドンへ運ばれ、哀れ、見世物になるが、鎖をひきちぎって暴れ回り、ロンドン中を恐怖と混乱(と笑い)の大パニックに陥れるという物語である。で、この物語には実はさまざまなパロディ、お笑い、駄洒落、おふざけ、ギャグの数々がふんだんに盛り込まれている。『ジョーズJAWS』は出現するワ、『エクソシスト』ネタは使われるワ、一転してミュージカル仕立てになるかと思えば、エリザベス女王まで"来賓”に及ぶ。ヒッピーもマリファナもコカ・コーラもオカマも、水洗トイレまでみんな風刺、皮肉、笑いの対象になっている。
古典の場面場面の"再現”もあるし、コングとティラノザウルスやプテラノドン(だと思う)の決戦も用意されている。これを『ジュラシック・パーク』の先取りなどとは言わないが(笑)。
それにゾロゾロ出てくる美女の群れ。まあ、よくやってくれているのだ。これらの一つ一つは映画を見て個々確認していただくしかないがこのフィルムの底に流れているのは製作当時、世界的に広まっていたウーマン・リブ運動だ。そしてヒロインたるゴリラ、クイーン・コングこそ、そのウーマン・リブの象徴として描かれていることが、
ジェット機まで動員されるクライマックスで判明するのである。ナルホドと納得するか、アッ気にとられるかは人によって違うだろうが、よくぞ作った、公開されたと唸るしかない"大作”である。
 この前代未聞のトンデモナイ映画を作った監督のフランク・アグラマはエジプト出身。最初は中近東でアクション映画を作っていたが、70年代イタリアに渡り、ファロウク(Farouk)・アグラマの名で脚本を書いていた(74年、イタリア名フランコ・アグラマで"神父の友人”〔未公開〕を発表)。
『クイーン・コング』は"フランク”の英語名で発表したが、元々アメリカ人という説もある。いずれにせよ、その名はパロディ満載、おふざけギッシリの本作を以っておそらく永久に記憶されるだろう。さなきだに、これはイタリアが生んだ世界的プロデューサー、ラウレンティスへの大胆不敵な、果敢なまでの挑戦状とも受け取れるのである。イタリア原題は"La regina dei gorilla”(『ゴリラの女王』)。なお、アグラマの作品は『ミイラ転生/死霊の墓』(81)がかつてビデオ・リリースされている。