黒井和男(キネマ旬報社代表取締役社長)
 ディノ・デ・ラウレンティスが「キング・コング」(33)のリメイク版を作り、ハリウッドのMGMスタジオに大がかりなセットが話題になり、世界的に大ヒットしたことがあったが、もう遠い記憶の彼方に消えようとしていたにもかかわらず、突然、配給会社からの電話で記憶を甦らせてしまった。
MGMのセットで実物大の"キング・コング”に対面してその大きさに驚いたものだった。たぶん現在ならCG合成で簡単に作ってしまうことだと思う。
 確か英国に『007』の取材に行った時に、面白い興味深い作品を作っているので、見に行かないかと誘われて、ロンドン郊外のシェパートン・スタジオに行った。その時に撮影されていたのが「クイーン・コング」だった。
 『キング・コング』が話題になったので、類似作品がかなり多くつくられたと記憶しているが、ラウレンティスが最もカッカして怒ったのがこの『クイーン・コング』だった。
『キングコング』は若い女性を好きになるが、『クイーン・コング』はまったく反対で若い男性を好きになるという、逆パターンの作品だとプロデューサーに説明された。ストーリーもかなり『キング・コング』に似通っていて、プロデューサーは『キング・コング』よりは遥かに面白い作品に仕上げると豪語していたのが妙に印象に残っている。
 『キングコング』はハリウッドで作られたため実物大のものを作り、『クイーン・コング』はミニチュアを撮影技術と合成とを駆使してみせるものになっている。
 パロディ的といってしまえばそれまでだが、おふざけ映画の類いを、真面目に正面からとらえると、おふざけを通り越してかなりまともな作品に仕上がってくる。『キング・コング』が出た時に、便乗して公開しようとしたのだろうが、それはあまりうまくいかなかったと聞く。
 日本では輸入されることもなく未公開で消え去ってしまっていたのだが、時間が経って改めて見てみると、鮮やかにその時の情景が浮び上がってくる。