中野貴雄(映画監督)
「皆様よくいらっしゃいました。今は原子力の時代になりました。でも皆さん、奇跡は昔の事でしょうか?そして神秘は言葉だけのものでしょうか?いいえ、奇跡は今でもあります。神秘も夢ではありません。では只今より、現代の奇跡・現代の神秘、私が南海の孤島で発見した幻の秘宝映画『クイーン・コング』をご紹介します!」『モスラ』(61)における悪徳興行師ジェリー伊藤のセリフ丸写しですが、果たして南海の孤島<ラザンガ・デイ・ドゥ・ザ・コンガ>(コンガらがった島ラザンガ)にひそむ秘宝とは何か?それは世にも珍しい巨大猿を撮った映画・・・ではなく世にも珍しい<サルが撮った映画>だったのだ!なんておりこうさんなんだ!<サルが撮った映画>の歴史は古い。名作中の名作ウィリス・オブライエンの『キング・コング』(33)『コングの復讐』(33)『猿人ジョー・ヤング』(49)が表通りの高級百貨店だとすると、裏通りの"思い出横町”にあるわあるわ。無数のピンサロ風俗店<サル真似映画>の数々・・・。例えば『UNKNOWN ISLAND』(48)。風にそよぐカカシのようなペラペラ恐竜と闘う幼児体型の巨大ゴリラ。南海の秘境ロマンが幼稚園の砂場レベルで展開するサル真似映画の古典である。メキシコには怪作『女子プロレスラー対アステカゴリラ』(56)がある。マッドサイエンティストが最強の兵士を作る為、ゴリラの脳を人間の体に移植する話(普通は逆じゃないか?)ゴリラのぬいぐるみも買えない貧乏モンスターと女子プロレスラーが対決する傑作だ。宇宙からやってくるゴリラもいる。史上サイテー映画の金字塔『ロボットモンスター』(53)である。小錦タイプのゴリラ着ぐるみに潜水服のヘルメットという世にもあんまりな宇宙怪獣。カーズのプロモビデオにも登場するダメ映画界の顔役だ。『宇宙猿人ゴリ』(71)の親戚なのかもしれない。カンフーを身につけたゴリラもいる。悪の皇帝の手先・空手ゴリラと女拳士が闘う『擁正名喪少林門』(83)。前述のメキシコ映画のリメイク?空手ゴリラと言えば『キング・カンフー』という作品もあったなあ。さらにおサルのカゴ屋だホイサッサ映画には『ゴリラの復讐』という飛び出す立体3D映画がある。何故か80年代イキナリ日本でTV公開され、赤&青の3D眼鏡を買いそこなった筆者は、ビニール袋に赤&青マジックを塗ったやつをかぶって、ゲロ吐いてしまいました。SFポルノ『フレッシュ・ゴードン2』には、塔のテッペンでオナニーし過ぎて死んじゃう発情ゴリラ(わざわざコマ撮り)が登場。『A・P・E』という作品では、全長20センチもの巨大ゴリラが全長30センチの巨大ジョーズとお風呂の中で闘う迫力のシーンがある。巨大生物同士のバトルで、全長25センチの豪華客船タイタニック号はあえなく沈没・・・ナメとんか!他にも『ゴリラの花嫁』『ホワイト・ポンゴ』(45)、忘れちゃいけない『キングコング対ゴジラ』(62)『キングコングの逆襲』(67)・・・モンキービジネスの系譜は枚挙にいとまが無いが、何と言ってもその頂点はディノ・デ・ラウレンティス版『キングコング』(76)だろう。御本家の『キングコング』がカニだとすると、カニカマボコみたいな大味超大作だったが、この年サル電波は全世界に波及した。香港ショウ・ブラザーズは『北京原人の逆襲』を製作、そしてラウレンティスのお膝元イタリアでは、本作『クイーン・コング』が誕生した!南海の魔女神クイーン・コング!怒れる大地母神の象徴!破壊と創造をもたらす大いなる力!見よ、ダイアナ・ロスにも似たマツ毛パッチリのつぶらな瞳!明らかに女性が演じている着ぐるみの優雅な歩き方!下半身が写らない(たぶん作ってない)ボコボコの恐竜!不必要に大勢いるビキニ姿の女原住民!(まるでキャバクラ)。ホットパンツの女船員によるヘタくそなミュージカル!フィルターがかかってるのかピントがボケてるのかよくわからない港町!昼だか夜だか判然としないロンドンでの大破壊シーン!苦笑するしかない『ジョーズ』『エクソシスト』のパロディ!・・・極北のバカ映画を見慣れているはずの筆者そして悶絶させる作品がここにある。昼下がりの洋画劇場を思わせるテンポにアルファ波が出まくりだ!そしてクライマックスの大演説、とても1976年度作品とは思えないフラワーチルドレンなセンス。何言ってんだかサッパリわからないハッピーエンド!この映画は完成した当初から時代性なんてものを超越していたのだ。『オースティン・パワーズ』に先駆ける事20年、このような幻の映画が極東アジアで覚醒し、昼下がりのTV画面ではなく巨大スクリーンで公開される。これこそが現代の奇跡、現代の神秘と言えよう。覆い茂げる密林の果て、そびえ立つ偉大な女神クイーン・コング。その咆哮が映画に新世紀をもたらすのだ。
zzzzzz